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水次祥子の「書かなかった取材ノート」

ヤンキースは古くさい?フレイザーに髪切らせ批判

 ヤンキースは口ヒゲ以外のヒゲを禁止するなど身だしなみの規制が厳しいことで知られているが、このキャンプに「ロン毛」問題が大きな注目を集めた。球団の有望株で今季メジャーのキャンプに参加しているクリント・フレイザー外野手(22)のロングヘアが首脳陣から「風紀を乱す」と指摘され、短髪にするよう命ぜられたのだ。

 確かにこのキャンプで、フレイザーの髪は目立っていた。赤毛を長く伸ばし、天然パーマでボリュームもあるため、そのヘアスタイルに思わず目がいってしまう。しかしヤンキースには髪形に関する規定はなく、フレイザーのロン毛はルール違反ではないそうだ。髪は目立っているもののフレイザー自身は目立ったり自己主張が強かったりする性格という印象は受けない。それでも首脳陣がフレイザーに髪を切らせたことが、米メディアでは物議を醸し「ヤンキースはあまりにも古くさい」と批判的な記事も目立った。

 メジャーでは、顔中のヒゲを伸ばす選手やロングヘアにしている個性派選手が増えた。ロン毛の選手といえばメッツのエース格であるノア・シンダーガードやジェーコブ・デグロム、ジャイアンツのエース右腕マディソン・バムガーナー、レイズのコルビー・ラズマス外野手らがいる。いかついヒゲを蓄えているのはアストロズのエース右腕ダラス・カイケル、ドジャースの守護神ケンリー・ジャンセン、レッドソックスの守護神クレイグ・キンブレルら、投手が圧倒的に多い。ヒゲは相手打者に対して威圧感を出すために伸ばしているという理由をよく耳にするが、特に童顔や柔和な顔立ちの投手が伸ばしていることが多い印象だ。ロン毛に関しては、イケているというより米国ではむしろ田舎スタイルの象徴となっている。

 マーリンズに取材に行った際、フレイザーのロン毛騒動が話題になっていた。マーリンズは昨季ヒゲ禁止のルールを導入したが、選手からは不満が噴出し、FAの選手にも「ヒゲ禁止なら契約しない」といわれ、今季はこのルールを撤廃した。選手たちの不満を直に聞いてきたマッティングリー監督がルール撤廃を球団オーナーにかけ合ったそうで「ヒゲは問題じゃない。プレーで結果を出すことこと大事」と主張している。同監督にとってはヤンキースは現役時代の古巣だが、その現役時代には髪が長すぎると首脳陣に非難され、試合に出してもらえなかったことがあったという。フレイザーの騒動について感想を求められると笑っていたが、内心はフレイザーを擁護したいのではないだろうか。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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松井秀喜氏いじるジーター!イチローとは絶妙の関係

ヤンキース背番号「2」永久欠番式に臨んだデレク・ジーター氏(左)とハンナ夫人(2017年5月14日撮影)

 ヤンキース一筋に20年間プレーしたデレク・ジーター氏の背番号「2」永久欠番式が、5月14日に行われた。さすがジーターという盛大さと熱狂ぶりだった。式典では現役時代の名場面をスクリーンで流し振り返っていたが、多くのシーンはいまだに記憶に残るものばかりだ。

 日本の野球ファンにとってもジーター氏は身近な存在だ。さかのぼること1997年、故伊良部秀輝氏がヤンキースに入団したとき、ジーター氏はすでにメジャーで3年目を迎える23歳だった。それから今に至るまでヤンキースには何人もの日本人選手が所属し、彼らを通してジーター氏の人柄に触れることが多かった。

 ジーター氏はベテランとなりチームキャプテンとなってからは年相応に落ち着いた雰囲気を醸し出すようになっていったが、若手時代もベテランになっても一貫して変わらなかったのは、誰に対しても人懐っこく声をかけ、チームメートをいじって相手を和ませるのがうまかったということだ。紆余(うよ)曲折を経て鳴り物入りでヤンキースに入団した伊良部氏は、当時はまだメジャーで日本人選手が珍しかった時代でもありなじむのに苦労していたと思うが、ジーター氏はそんな同氏にも同じように接していた。

 03年から7年間チームメートだった松井秀喜氏は、ジーター氏からよく「トシヨリ」と日本語で言われ、いじられていたのは有名だ。2人とも6月生まれの同い年だが松井氏の方が2週間早く生まれているために「トシヨリ」ということになったのだ。松井氏が背番号「2」の永久欠番式に出席した際も、ジーター氏にどんな言葉をかけるかと問われ「トシヨリでしょう」と笑っていた。そんな松井氏のジーター像はやはり「誰にでも気遣いのできる、そういう選手なので(自分のときも)自然と受け入れてもらった、そういう感じだと思います。いつもそこにいる選手なんで、勇気づけられるというよりも、安心させてもらえるという、そういう存在なんじゃないかなと思います」だという。

 12年から3年間チームメートだった黒田博樹氏も、やはりジーター氏からいじられていた。黒田氏といえば黙々と自分のやるべきことに取り組む生真面目な選手という印象で、決していじられキャラではなかったが、それでもいじるところがジーター氏らしい。しかしそんなジーター氏も、イチローとは「いじられる側」に回ることもあり、その2人のバランスは絶妙だったと思う。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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大谷の価値を「肌で実感」メジャー殿堂館長も熱視線

大谷翔平

 イチローのメジャー通算3000安打を祝うセレモニーが行われた4月最終日、マーリンズパークで野球殿堂のジェフ・アイデルソン館長にお会いした。08年から同職に就くアイデルソン氏は、最近ではメジャー専門テレビ局MLBネットワークで殿堂入り発表特番のプレゼンターを務めるなどしているためファンの間でもおなじみかもしれないが、普段は裏方に徹しながらさまざま場所に出没する。

 イチローが通算3000安打に近づいていた昨年7月にも、同氏は連日、マーリンズパークに来ていた。仕事上、大記録に立ち会うために来ていたのだろうが「仕事というよりプライベート」と話していた。今回の祝典も「もちろん、セレモニーのためです」と球場に再び出没。セレモニー中は、ホームプレートから数メートル離れたバックネット付近で、祝典の一部始終を見守っていた。

 メジャー移籍以来、野球殿堂を何度も訪れているイチローと同氏の結びつきは深い。昨年6月にイチローはUSAトゥデーのベテラン記者ボブ・ナイチンゲール氏に「僕が死んだら、僕の遺品はすべてジェフ(アイデルソン氏)と野球殿堂に寄贈するよう、お互いの間で了解している。もしかしたらジェフの方が先に逝くかもしれないが、僕のすべてのものは殿堂にいく」と話しているが、そのことからも互いの信頼関係の強さがうかがえる。歴史というものは、歴史をつくる人がいなければもちろん始まらないが、それを目撃し後世に語り継ぐ人物がいることも重要であるとすれば、アイデルソン氏ほどメジャー史の語り部としてうってつけの人物はなかなかいないだろう。

 そんな同氏が今春、訪日し、WBCや日本の野球を視察した。米国でも有名な高校野球の舞台をぜひ見たいと甲子園球場も訪れ「高校野球は観られなかったが、プロ野球の阪神戦を観た。球場は素晴らしかったし、ファンの熱狂、選手ごとに違う応援歌、どれも新鮮で面白かった」と話していた。メジャー移籍が確実視される日本ハム大谷についても情報収集したそうで「彼の存在がいかに大きいか、日本にいて肌で実感した」という。二刀流という希少な選手が海を渡りメジャーで新たな歴史をつくっていくかもしれないとすれば、メジャー史の語り部としての同氏の仕事は、すでにスタートしているのかもしれない。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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変わりつつあるメジャーで起きた「引き分け」議論

 この数年で次々と新ルールが導入され変わりつつあるメジャーリーグだが、つい先日、あるルールを巡って議論が起きた。「引き分け」はありかなしか、というものだ。

 日本のプロ野球では延長12回までに決着がつかなければ引き分けだが、メジャーはご存じのように引き分けがなく、決着がつくまで延々と試合を続ける。今季は開幕から延長に入る試合が多く、そんな中でESPNのジョン・シアンビ記者が「年間162試合も戦うスポーツで12回を超える延長戦を行うのはばかげている。私は引き分けがあってもOKだ」とツイッターで意見を述べた。ニューヨーク・ポスト紙のジョエル・シャーマン記者も「ベースボールには引き分けもあるべき」という記事を掲載。4月13日のマーリンズ対メッツの試合が延長16回まで続き、メッツのテリー・コリンズ監督がレネ・リベラ捕手を投手として投げさせ、先発右腕ザック・ウィーラーに一塁を守らせる準備をしたほど起用する選手がいなくなったことを例に挙げ「長い延長は選手の故障のリスクを高め、試合は一発狙いとなり視聴者を飽きさせる」などと書いている。

 一方で、これらの意見に真っ向から反対する声もある。FOXスポーツの名物リポーターであるケン・ローゼンタール氏は「野球にいいところはたくさんあるが、その中でも一番愛すべきことの一つは、ばかげている部分だ。長い延長戦は、救援投手が何イニングも投げ、先発投手がリリーフや代打や代走をし、野手が投手になるなど何でもあり。ファンはそれを楽しんでいるし、記憶に残る魅力的な試合になることが多い」と引き分けなしのルールを擁護。例えば昨季、12回以上の延長が行われたのは63試合で全体の2・59%にすぎず、選手の故障のリスクに大きな影響を与えるほどではないとも指摘している。

 個人的には、ローゼンタール氏に同意だ。タフさを競うのも、メジャーの面白みだと思う。また、メジャーは多くの試合数をこなしながら選手登録25人というタイトな枠組みの中で戦うリーグであるため、マイナーも含めた層の厚さ、編成力という球団全体の総合力がより試される。長い延長戦で投手を使い尽くしたときなどは、特に層の厚さが如実に現れるため、それぞれの球団の総合力を実感するいい機会。こうしたメジャーならではの楽しみ方は、なくならないでほしい。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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WBCの余韻、1カ月経過も米国優勝祝うセレモニー

トロフィーを高々と上げる米国ナイン。手前はインタビューを受けるリーランド監督。手前右端は拍手するトーリGM(撮影・菅敏)

 野球シーズンに入ると3月に開催されたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も遠い記憶になりつつあるが、それでも今年は過去の3大会のときとはちょっと違う。4月になってもまだ、WBCの余韻が感じられるのだ。

 例えば4月12日、ヤンキースの本拠地開幕戦の試合前、WBC米国代表の優勝を祝うセレモニーが行われた。ヤンキースといえば、06年に第1回が開催された当時は大会にあまり積極的ではなく、そのイメージがいまだについている。先代のオーナーである故ジョージ・スタインブレナー氏が勝つことに強いこだわりを持つ経営者だったため、選手を心配し、派遣することに抵抗を示していたのは確かだった。

 だが今大会では、ヤンキースはメジャー登録の選手だけでも3人が出場し、トニー・ペーニャ一塁コーチがドミニカ共和国代表の監督、元ヤンキース監督であるジョー・トーリ氏が米国代表GM、球団OBのティノ・マルティネス氏とウイリー・ランドルフ氏が同代表コーチを務めるなど、球団関係者が数多く大会に参加している。セレモニーではトーリ、マルティネス、ランドルフの3氏が始球式を行い、米国の優勝を祝った。小さなセレモニーとはいえ、球団がこうしたイベントを企画するなど、かつてなら考えられなかった。

 シーズンが始まってからWBCに出場した投手の故障のニュースが出ているが、一方で「WBCに出場した選手の故障割合は、出場していない選手のそれよりも低い」という調査結果が記事になっていた。大リーグ機構の調べによると、13年の第3回大会ではメジャー40人枠に入っている参加投手40人のうち故障者リスト(DL)入りして開幕を迎えたのは1人のみ(2・5%)、出場していない投手で開幕DL入りは61人(10・1%)。今年の第4回大会では参加投手で開幕DL入りが55人中3人(5・5%)、出場していない投手は75人(12・5%)だという。もちろん、これで大会における故障リスクを心配する声がなくなるわけではないだろうが、ポジティブな側面も伝えられるようになったのは、やはりかつてはあまりなかったことだ。

 ニューヨークの地下鉄では、2年連続準優勝を果たしたプエルトリコ代表の帽子をかぶっている人を2度ほど見かけた。準優勝とはいえ、プエルトリコでは大変な盛り上がりだったそうだが、ニューヨークに住む同国出身者も、街の中でこうして誇らしげに被っている。かつての3大会では、WBCが終わってしまえばその後に話題になることもなかったが、今年は大会から約1カ月が過ぎても、こうして余韻が残っている。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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マーリンズ身売り新展開でジーター・オーナー待望論

 イチローが所属するマーリンズの身売り話に、新展開があった。元ヤンキースのデレク・ジーター氏を含むグループが買収に興味を示しているという。元フロリダ州知事で昨年の米大統領選で共和党候補の1人だったジェブ・ブッシュ氏のグループ、もう1つゴールドマン・サックス社の後ろ盾を得たグループも参戦し、少なくとも3グループが獲得に動いているとされている。

 FOXビジネス・ネットワークが最初にこれを伝えると、ニュースはすぐに他のメディアでも報じられ、ツイッターなどのSNSを賑わした。ジーター氏は球団オーナーになりたいという願望を常々口にしてきたためサプライズのニュースではないが、それでもこれだけ話題になるのは「デレク・ジーター」というブランドの威力があってのことだ。

 地元マイアミでは、球団の身売りはもう確定的ととらえられており、いつ新オーナーに交代するかに注目が集まっている。キャンプ中にマーリンズのあるフロントの方と話す機会があったが、その方は「球団売却は煩雑な手続きなので、実際に新オーナーに移行するまで2~3年かかるのではないか」と予想していた。実際、最近の例を見ると、パドレスは前オーナーが2009年に1つの投資家グループと球団売却の話し合いを始めたが、それが2012年に破談となり、同年8月に別のグループに売却するという紆余(うよ)曲折があった。これが示すように、身売り話はスムーズに進むとは限らない。

 だが地元では速やかなオーナー交代を望む声が多く、年内に売却が成立する可能性もあるのではとの期待もある。米メディアではジーター・オーナー待望論もあり、ESPNの名物記者バスター・オルニー氏は、自身のインターネット放送の中で「ジーターはMLBにとってパーフェクトな存在。MLB側が望ましい人物を選んでグループを再編することも可能」と指摘している。また今回の球団身売りは、ドジャースのケースと重ね合わせて語られることも多い。ドジャースの前オーナーであるフランク・マッコート氏は評判が悪く、ファンの観戦ボイコットまで起きたほどだったが、地元ロサンゼルスのスポーツ界の名士マジック・ジョンソン氏を含む新オーナーグループに交代し、イメージを回復した。マーリンズの現オーナーであるジェフリー・ロリア氏もファンからの評判が悪く、新オーナーはイメージ回復がひとつの課題になってくるというのである。

 こうした米国内の空気を見ると、ジーター氏が興味を示しているというのが事実ならば、同氏が新オーナーグループに名を連ねるのはもはや必然といってもいいのかもしれない。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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WBCで議論沸騰!ラテン流感情表現はマナー違反?

準決勝プエルトリコ対オランダ 試合前、美女とキスするプエルトリコの選手(撮影・菅敏)

 かつてない盛り上がりをみせた第4回WBCをきっかけに今、米球界で「カルチャー・クラッシュ(文化摩擦)」が議論を呼んでいる。同大会に参加した中南米各国の選手が、盛り上がる場面で本塁打やタイムリー、好プレーが出たとき「やった」といわんばかりに体で感情を表現するラテンスタイルに、米国選手が戸惑い、議論が大きな広がりをみせているのだ。大会中、米国代表のイアン・キンズラー内野手(タイガース)が「WBCを観ている子どもたちがプエルトリコやドミニカ共和国の選手とは違う僕らのプレーを見て、理解してほしい。僕らはああいうふうに野球を教えられてこなかった」と発言したことが、議論を一層ヒートアップさせた。

 メジャーには「アンリトゥン・ルール」と呼ばれる、主にマナーに関する暗黙の決まり事がいくつもあり、キンズラーの意見はそれを踏まえてのものだ。例えば本塁打を打った後に立ち止まって打球の行方を見守るような行為や、打った瞬間のバット投げなどは、誇示していると受け取られるため行ってはいけない。試合中に感情をあらわにすること、相手投手がノーヒッターを継続している最中にバントをすること、カウント3-0からバットを振ることなど、挙げていくときりがないほど、やってはいけない暗黙のルールが数多く存在する。キンズラーが言うとおり、こうしたマナーは子どもの頃から「野球の常識」として覚えてきたのだろう。

 しかし今回のWBCで、米国の野球メディアでは「ラテン系選手はWBCを楽しんでいる」「ベースボールの人気回復にはラテンスタイルの華やかさが必要なのではないか」など、ラテンのプレースタイルに好意的な論調が目立った。ロブ・マンフレッド・コミッショナーも、WBCでそれぞれの国のスタイルが出るのはむしろ望ましいといった趣旨のコメントをしている。キューバ出身のヨエニス・セスペデス外野手(メッツ)は自身のSNSに「メジャーがもっとラテン文化を取り入れれば、盛り上がるのではないか」と意見を述べる動画を投稿し、なぜラテン系選手がバット投げなどをするのかを詳しく解説した。この議論は今後も続くだろう。

 もちろん米国選手たちが、WBCを楽しんでいなかったわけではない。マーリンズのクリスチャン・イエリッチ外野手は、WBC優勝を果たしチームに復帰したとき「信じられない盛り上がりの中の試合は本当に楽しかった。USA!の声援が試合中絶え間なく続いていたんだからね。すごかったよ」と満面の笑みで語っていた。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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WBCに光明!メジャー各球団かつてより協力的に

WBCのためチームを離れる青木

 WBCに出場する選手が一時的にチームのキャンプ地を離れていく場面を何度か見かけたが、メジャーの球団はかつてよりWBCに協力的になったのではないだろうか。

 マーリンズ、アストロズ、ヤンキースに取材に行ったが、少なくともこの3球団は協力的な印象だった。マーリンズは本拠地球場のマーリンズパークを1次ラウンドの開催地として提供していることもあり協力的なのは当然なのだろうが、アストロズは日本代表の青木宣親外野手がWBC向けの調整をすることを積極的に手助けしていた。代表合流の時期が他のWBC組より早くオープン戦最初の2試合しか出場できないという青木のためにその2試合に優先的に出場させ、代表では中堅を守ると聞いてオープン戦で中堅に慣らす機会を与えた。オープン戦のその2試合はいずれも遠方の遠征試合だったため、青木をチームバスで往復させずに遠征先で1泊させる配慮もするなど、至れり尽くせりだった。

 ヤンキースは、ドミニカ共和国代表のデリン・ベタンセス投手、オランダ代表のディディ・グレゴリアス内野手、米国代表のタイラー・クリッパード投手、イタリア代表のトミー・レイン投手と傘下のマイナー選手合わせて7人がWBC出場のためキャンプを離脱した。ジラルディ監督は「選手たちが(故障などしないか)多少心配だが、彼らは自分たちの調整の仕方を心得ている。我々の仕事は、彼らが試合に出られる準備ができるよう手助けすることだ」とし「マイアミ、メキシコ、アジアとそれぞれ行き先も違い、米国時間の早朝の試合に出場する選手もいるが、何時だろうと観るつもり」と話していた。本音では気が気ではないのかもしれないが、WBCに出場するためオフシーズンに早めに始動しなければならない投手には早い時期から投球プログラムを与え、後押しした。

 出場する選手たちはみな、国の代表ユニホームを着て戦うことを楽しみにしている。米国代表のクリッパードは「学生時代の全米代表や五輪代表にも選ばれたことがなかったから、一度は代表になりたいと昔から思っていた」という。メジャーの選手の中にはWBCに興味を示さない選手もいるが、参加する選手にとっては意味のある大会。球団のサポート環境が整ってきたことは、いい傾向ではないか。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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青木アストロズはミーティング&コミュニケーション

アストロズ青木宣親(撮影・菅敏)

 メジャーのキャンプは、チームによってやはりそれぞれ特徴がある。青木宣親外野手が移籍したアストロズもそうだ。外野陣の練習を見ていると、フィールドでコーチを囲んで輪になり、かなり時間をかけてミーティングをしている場面をよく見る。他チームもミーティングはしているだろうが、フィールドで練習中に選手たちが輪を作って頻繁に話をしているのはアストロズ独特ではないだろうか。「野球はまず頭から」ということなのか、コーチが選手に事細かなレクチャーをしているようだ。

 先日、いつものように外野陣がフィールドでミーティングしたとき、コーチが全員に対して一通りレクチャーをした後、青木を呼び止め再び長々とレクチャーをし始めた。どんな話だったのか青木に尋ねると、全員に話したことと同じ内容だったといい「たぶんそれを伝えたかったんじゃない。分かったかなと思ったんじゃない。(送球のときの握りを)もっと縫い目にかけろと。そっちの方が引っ張っても取れないだろと。そんな感じ」と笑っていた。

 青木がキャンプ2日目に室内ケージで早出の特打をしたときは、デーブ・ハジェンズ打撃コーチと熱心に意見交換をする姿があった。ホームベース上に野球ボールを置き「2ストライクからは、こうだね」といった会話をしながら、ときどき同コーチの「ああ、それは私も同意する。ほとんどの打者は、こうだけれど」という言葉が聞こえてきた。練習後に同コーチに聞くと「彼についてよく知っておきたいからね。彼がどのような打撃をするのか、どんな考えを持っているのか、どんなルーティーンをしているのか、などについて話したよ」という。

 野手組キャンプインから約1週間後には、チームの全体練習後に野手をいくつかのグループに分け「ヒッティング・ミーティング」なるものが2日間に渡り行われた。すでにチームに慣れている選手以外はなるべく少人数で濃い内容のミーティングしようという意図があるようで、通訳が必要な青木だけはグループではなく単独で、マンツーマンのミーティングが組まれていた。ミーティングが多いと同時に、コミュニケーションも重視しているチームのようだ。

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レベルアップへ中南米選手も頼るべきは母国の先輩

 キャンプ初日というのは毎年、すべてのチームが明るい希望に満ちている。野球ファンの間ではこの日に「明けましておめでとう」のあいさつが交わされるが米国でもやはり同じで、キャンプ地の記者席でも「ハッピー・ニュー・イヤー」というあいさつの声が聞こえてくる。

 ヤンキースのキャンプ初日も、やはり希望に満ちあふれた雰囲気は同じだ。昨季まで現役だったアレックス・ロドリゲス氏やマーク・テシェイラ氏らベテランのスター選手がほとんどいなくなったため寂しさもあったが、メジャーで定位置を取ってやろうと意気込む若手がひしめくクラブハウスには活気が漂う。

 これから始まるキャンプが楽しみでたまらないという顔をしている若手の中で、ひときわ目を輝かせていたのが22歳のルイス・セベリーノ投手だった。ヤンキースの先発ローテは今季、開幕投手に指名された田中将大、36歳ベテラン左腕のCC・サバシア、5年目のマイケル・ピネダと3番手までは決定しているが、残り2枠はセベリーノら5人で争うことになる。

 セベリーノの先発ローテ入りにかける意気込みは大変なもので、オフシーズンに約4・5キロ減量して体を絞り、投球フォームの修正に取り組んだ。その際に指導を頼んだのが何と、15年に野球殿堂入りしたペドロ・マルティネス氏だったという。2人は同じドミニカ共和国出身だが、ペドロといえばヤンキースとは同地区ライバル関係にあるレッドソックスのレジェンド。ヤンキースとレッドソックスの選手が親しくすると大きなニュースになるほど交流がはばかられる雰囲気のある両球団だが、セベリーノはそれでも憧れの人に教えを請いたいと「共通の知人であるドミニカ共和国のメディア関係者に電話番号を教えてもらい、思い切って電話をした。緊張した」そうだ。

 レジェンドからの直接指導は母国で何度も行われ、昨季精彩を欠いていたチェンジアップの修正に重点的に取り組み、今はすっかり自信をつけている様子。ジラルディ監督も「セベリーノがペドロのような投球をすれば、間違いなく先発ローテ入りだ」と期待している。日本の選手同士でもこうした同国のよしみで助言を得たり助け合うということはよくあると思うが、中南米選手たちもやはり頼るべきは同国の先輩というのは面白い。

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A・ロッド、ヤ軍若手指導へ 実は努力型で練習好き

イチロー(左)と握手するアレックス・ロドリゲス(写真は2015年6月18日)

 昨年8月にヤンキースのユニホームを脱ぎ事実上の現役引退となったアレックス・ロドリゲス氏(41)が、ヤンキースの特別アドバイザーとして今季はキャンプからフル回転することになりそうだ。

 ハル・スタインブレナー・オーナーがニューヨークの地元メディアに明かしたところによると、2月半ばから始まるキャンプで若手を指導する予定で、キャンプ序盤と中盤の2度、参加するという。

 A・ロッドは薬物スキャンダルのダーティなイメージがついてしまったものの、歴代4位の通算696本塁打を放ち、全盛期は圧倒的な実力を誇った。スーパースター級の選手には天才肌が多いイメージだが、A・ロッドはむしろ努力型で、練習好きという印象だった。

 A・ロッドがヤンキースでプレーしていたときによく覚えているのは、アスレチックスの本拠地オークランドコロシアムに遠征したときのことだ。古く狭い球場なので、そのときは練習施設が空いていなかったのか、A・ロッドがクラブハウス前の狭い通路でトレーニングをしている場面に出くわした。コンディショニングコーチと2人でボールを使った、おそらくアジリティのトレーニングのようだったが、狭いスペースながら集中した様子で同じ動きを延々と反復していた。

 現役晩年の頃は、早出で特打、特守もよくやっていた。すでに衰えていたとはいえ球界を代表するスターだった選手が、早出をするというのは珍しい。過去のイメージとは裏腹に、ある面では非常に泥くさく真面目な選手だった。そう考えると、若手を指導するという根気のいる仕事には、案外向いているかもしれない。スタインブレナー・オーナーも「彼が若手に与える影響がいかに大きいか。それだけ良い指導者であり、手本となる存在だ」とA・ロッドを高く買っており、今後は可能な限り球団と関わってほしいという。

 現在、A・ロッドは自身でビジネスを展開しながら、イレギュラーでメジャーの解説をこなし、さらには今年からテレビのリアリティーショー番組の司会にも抜てきと、引っ張りだこ状態。そのためヤンキースのためにどれくらい時間を割けるのかは未知数だが、一時は険悪な関係に陥ったフロントと今は蜜月の間柄になっていることは間違いなく、今後もヤンキースとのかかわりが多くなりそうだ。

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相次ぐドミニカ選手の交通事故死、注意喚起を徹底へ

 ロイヤルズの若きエース、ヨルダノ・ベンチュラ投手が、自動車運転中の事故により25歳で急逝したのは大きな衝撃だった。同じ日に、インディアンスや韓国プロ野球でプレーしていたアンディ・マルテ内野手も交通事故で33歳で死去。別々の事故だったがどちらもドミニカ共和国で、シーズンオフの帰省中に起こった悲劇だった。

 ドミニカ共和国出身の選手では、14年に将来有望な22歳の強打者でベンチュラの親友でもあったカージナルスのオスカー・タバレスも交通事故で亡くなり、昨年1年間ではヤンキース、オリオールズ、アストロズの若手有望株3人がやはり交通事故死している。ドミニカ共和国ではなぜこれほどまでに、若い選手が事故で命を落とすのか。

 1つには、世界で最も劣悪な交通事情と、死亡事故発生率の高さがある。WHO(世界保健機関)のデータによると、2015年の1年間の西半球各国で、車の死亡事故発生率は同国が最も高く、人口10万人に対する死亡者は29・3人だった。また各国の飲酒運転に対する法の厳格な施行状況に関する調査では、最も緩いと判定できる国を1とし10までランクをつけた場合、ドミニカ共和国は2にランク、スピード違反の取り締まりは3にランクされている。

 ドミニカ共和国生まれで、今オフに同国冬季リーグの監督を務めているマリナーズのマニー・アクタ三塁コーチ(48)は、同国の運転事情についてワシントン・ポスト紙にこう話している。「ここで車を運転するのは、西部の荒野を走るか危険なエクストリームスポーツ(Xゲーム)をやっているようなもの。法や秩序など存在しない。警官の数も少ないし、いたとしても彼らは安月給なのでお金を渡せば簡単に違反をなかったことにしてくれる。私はこの国の出身だが、車は運転しないし、車が必要な時は必ず運転手を雇っている。野球界に限った話ではなく、根深い、文化の問題だ。この国ではどういうわけか、シートベルトを締めずに運転することが、格好良いということになってしまっている」。

 最近、メジャーの各球団の管理職に就く人たちは、ドミニカ共和国出身の若い選手に対して運転に関する注意喚起を徹底するようになったそうだ。それでも悲劇はなくならず、今後もこの問題は球界の課題の1つになっていくだろう。

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トラウトがまさかのFA?意外な州法でひと騒ぎに

エンゼルスのトラウト(写真は2015年7月15日)

 昨季2度目のMVPに輝いたエンゼルスのマイク・トラウト外野手をめぐり、メジャーでほとんど知られていない、ある事実が話題になった。エンゼルスが本拠地を置くカリフォルニア州の労働法2855条によると、州内で結ばれる雇用契約は、最長で7年までという制約があるという。つまり、同一雇用主と8年以上の契約を結んでいても、7年が終了した時点で契約を解除することが可能となる。プロスポーツ選手については例外を設ける案も出されていたそうだが実現しておらず、州内の球団と契約している選手にもこの法律が適用されるようだ。

 09年ドラフト1巡目指名でエンゼルスに入団したトラウトは、11年に初昇格を果たし今季がメジャー7年目だが、14年に契約延長を結んでいるため20年まで契約が続く。だがカリフォルニア州のこの法律を適用すれば、今季限りでFAとなることができるのではないかと米メディアが指摘し、トラウトが今FAになれば争奪戦で大変なことになると騒ぎになった。

 カリフォルニア州といえばドジャースも本拠地を置いており、所属する前田健太投手は15年オフに8年契約を結んでいる。現在の契約では23年のシーズン後までFAになれないが、州法を適用すればそれよりも1年早くFAになることが可能となる。

 もっとも、カリフォルニア州に事務所を構え弁護士資格も持つ大物代理人スコット・ボラス氏は、この法律によって早くFA権を取得する可能性には否定的だ。米メディアのインタビューで同氏は「MLBの労使協定に対し、州法を振りかざして法廷で争うのはリスキーだ。この法律は、労働組合に所属していない人々が自分たちの権利を守るためにあるもの。MLBで適用しようとしても、無駄だと思う」と意見。「もし争うとしたら連邦裁判所になるだろうし、最高裁までいって争うことになるだろう。裁判で決着をつけるのに4年はかかると考えた方がいい。脂の乗った時期の選手が、訴訟で4年も煩わされることになれば、プレーにも影響する」と理由を述べている。敏腕代理人として知られ、どんな手段を使ってでも有利な契約を勝ち取ってきたボラス氏がこのように消極的であるということは、州法を利用しようという代理人が出てくることはまずなさそう。米スポーツメディアでは盛り上がった話題だったが、机上の空論だったようだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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イチロー次に抜くのは「同じタイプ」俊足カルー氏

現役時代のロッド・カルー氏

 今季はメジャーでどんな記録が生まれるのか、気になる季節になってきた。節目の記録でいえば、エンゼルスのアルバート・プホルス内野手が通算600本塁打まであと9本、レンジャーズのエイドリアン・ベルトレ内野手が通算3000安打まであと58安打に迫るなど、大記録がいくつか達成されそうだ。

 3000安打といえば、マーリンズのイチロー外野手が昨年8月7日の敵地でのロッキーズ戦で日本人選手として初めて達成し、今季は通算3030安打でメジャー17年目のシーズンを迎える。歴代通算安打では25位にランクされ、このままいけば次に追い抜くのは同24位ロッド・カルー氏(元ツインズ内野手)の3053安打だ。

 現在71歳のカルー氏は1967年にデビューして新人王に輝き、1985年までメジャーで19年間プレーした。1年目から18年連続で球宴に選出され、首位打者には7度輝き、通算打率は3割2分8厘で歴代34位、1991年に野球殿堂入り。イチローと同じ右投げ左打ちで、2ケタ本塁打を記録したのは29歳と31歳のときに14本塁打をマークした2度のみだが全盛期には35盗塁以上を4度記録し、安打を量産しスピードもあるという点はイチローとよく似ている。カルー氏自身、昨年7月のESPN電子版のインタビューで「イチローは、現役時代の私と同じタイプの打者だ。彼も私も広角にヒットが打てる。彼は足があるので内野ゴロの間に走って安打を稼げるし、バントもできる」と、自分自身と重ね合わせて語っていた。ちょうど日米通算でピート・ローズ氏の持つメジャー最多安打記録4256を抜くときで「2つのリーグの記録を足すことによって、イチローをベストとすることはできない」と見解を述べていたが、選手としてのイチローには「大変尊敬している。メジャーに来て、こんな短期間で3000安打を達成するということが、彼の偉大さを物語っている」と称賛を惜しまない。そんなイチローが自身の記録を超えていくのを見るのは、感慨深いものがあるのではないだろうか。

 カルー氏は、昨年12月に18時間にも及ぶ心臓と腎臓移植の大手術を受けており、現在は療養中。イチローが昨季のペースで安打を打ち続ければ、カルー氏を追い抜くのは5月下旬だろうが、その頃にはカルー氏も回復し元気になられていることを願いたい。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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メジャー選手、オフの変わったトレーニングあれこれ

マーリンズのジアンカルロ・スタントン

 レンジャーズのダルビッシュ有投手がオフシーズンの合同トレーニングを公開し話題になっている。最近はツイッターやインスタグラムなどのSNSが普及しているため、ダルビッシュだけでなく複数の選手がトレーニング中の写真や動画を公開しており、これまでベールに包まれてきたメジャーリーガーのトレーニングを垣間見ることができるようなった。中には、ユニークなトレーニングが注目を集める選手もいる。

 例えばイチローの同僚でマーリンズの主砲ジアンカルロ・スタントンは、このオフのトレーニング動画をインスタグラムでユニークなトレーニングを披露した。トラックか重機に使用されるような大きなタイヤを床に置き、それを両手に持った鉄製のハンマーで何度もたたくというものなのだが、身長198センチ、体重109キロの筋骨隆々な体に、本塁打の飛距離がメジャー一というパワーを持つだけに、その様子があまりに迫力があると話題になった。

 メジャーの先発投手で最も平均球速が速く最速で102マイル(約164キロ)以上の剛速球を投げるメッツの右腕ノア・シンダーガードは今オフ、背筋と太もも裏の筋肉強化を目指し、ジムでデッドリフト、ベンチプレス、スクワットなどを行っている。興味深いのは、ボディービルダーも練習に取り入れているCAT(Compensatory Acceleration Training)というテクニックを使っていることだ。これはウエートトレーニングの方法論の1つで、体や筋肉に負担をかけすぎて痛めないよう軽めの重量を使うが、それでも力をマックスに出すためにリフティングなどをするときのスピードを極限まで速めるというもの。自分にかける負荷を重量ではなくスピードで補うというわけだ。シンダーガードは専属のトレーナーの指導を受けながら、このトレーニングを週4日行うプログラムを組んでいるという。

 もう1人ユニークなトレーニングを行っているのは、タイガースのマイケル・フルマー投手だ。何とフルマーは、オフシーズンに自宅のあるオクラホ州で配管工の仕事をしている。昨オフに友人に頼まれて始め、メジャーリーガーとなった今季も続けているのは、配管用の溝を掘るなどの肉体労働が、トレーニングにうってつけだからだという。オフに入るとまず配管作業で体を動かしておき、その後に本格的な自主トレを始め、キャンプインに備える。この珍しいトレーニング法が功を奏し、今季メジャーデビューを果たして11勝7敗と活躍し、新人王に輝いている。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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25歳ルール、契約を批判したペレス「翻弄された」

 日本ハム大谷翔平投手のメジャー移籍問題で、25歳未満の海外選手に適用される「国際ボーナス・プール」のルールが注目を集めている。25歳未満の国際選手はメジャー契約を結ぶことができず、例外なくマイナー契約になるという。

 これは「スタンダード(標準)マイナー契約」と呼ばれるもので、契約の際に契約金の額、マイナー各レベルの年俸の目安、出来高ボーナスの詳細、メジャーのキャンプに参加するかどうか、高卒選手の場合には奨学金の有無などが決められる。契約した球団は選手がメジャー昇格からFAになるまでの約6年間、保有権を持つことになり、その間は契約を結び直すことも可能だが、長期契約になることはあっても、FAになるわけではないため驚くような高額契約になることはまずないといっていい。

 つい最近、この国際ボーナスプールの契約を批判する選手が現れ、話題になっていた。アストロズに契約金200万ドルで入団を決めた20歳のキューバ出身左腕シオネル・ペレスだ。

 ペレスは最初、アストロズと契約金515万ドルで合意していたが、球団側が左肘に問題が見つかったとして契約を破棄した。ペレスと代理人はそこでFAになれると考え、もしそうならオリオールズが1000万ドルで契約するといってきたそうだが、結局なれず。他球団との契約も検討したが、アストロズなら最も早くメジャー40人に入ることができるからと200万ドルで再び契約することになったという。しかもアストロズは前年のボーナスプールの上限を超え契約金の100%の罰金を支払わなければならないため、515万ドルで契約していたら1030万ドルを払わなければならなかったところを、200万ドルの契約を結べたため400万ドルの支払で済んだ。

 契約はルール5ドラフトの翌日に行われたため、アストロズはペレスを安い金額で獲得でき、ルール5ドラフトで他球団に奪われることもなかった。かなり球団有利の状況となったことから、ペレスは契約までのプロセスに納得がいかず「ルールに翻弄(ほんろう)された」と声明を発表している。

 新労使協定の規定では契約金総額に厳しい上限があるため罰金を支払うことはなくなるが、それでも25歳未満の国際選手の契約は、FAと違い選手側に与えられた選択肢などが限られていることはそう変わらないだろう。新ルールがどのように機能していくか、今後注目したい。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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世界一カブスもメンタル重視「技&体」生かす「心」

 メジャーリーグの新労使協定が無事合意にこぎつけた。概要を見てみたが、実に多岐にわたった内容が網羅されていて驚く。ひとつ注目したのは、スポーツ心理学専門家についての条項が盛り込まれていることだ。スポーツ心理学の重要性はメジャーでも注目されるようになり、今季は少なくとも半数近くの球団が専門家を雇っているとみられているが、労使協定で選手がいつでもスポーツ心理学専門家に相談ができる環境を整えることを球団に対して奨励している。ひと昔前なら、メンタルの話はメジャーのクラブハウス内のタブーという風潮があったが、その時代と比べるとずいぶん変わったものだ。

 すでに選手のメンタルケアに力を入れているのはヤンキース、レッドソックス、ナショナルズ、今季世界一のカブスなどだ。カブスは15年2月に新たな「メンタルスキル・プログラム」を創設し、世界的スポーツマネジメント会社IMGで実績を上げていた専門家のジョシュ・リフラック氏を招き責任者に据えた。さらに元外野手のダーネル・マクドナルド氏、レイ・フエンテス氏をメンタルスキル・コーディネーター、心理学者を相談役にするなど充実した体制を作り、集中力の高め方、失敗からの立ち直り方、私生活の悩みに至るまで選手のケアを行っているという。

 この他、マリナーズは昨オフ、ロッキーズでメンタルスキル・コーチを務めていたアンディ・マッケイ氏をファーム・ディレクターに任命して育成の責任者にし、メンタル・アプローチによる若手の開花を試みている。ロッキーズは今年3月、NFLデンバー・ブロンコスでパフォーマンス・コンサルタントを務めていたリック・ペリア氏をメンタルスキル・コーチに迎え、投手を伸ばすにはメンタル面が重要ということで、若手は特に相当な量のメンタル強化トレーニングを行っているそうだ。メッツのセス・ルーゴ投手は今季終盤の頃、ニューヨーク・ポスト紙に「僕らのチームにもメンタル・コーチがいるよ。もし僕が完全に自信を喪失してしまったり、強いプレッシャーで自分を失ってしまったりしているとき、彼は一瞬にしてそれを治してくれるんだ」と明かしている。メンタル面のケアは、今やメジャーで欠かせないもののようだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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イチローに朗報 メジャー外野手は軽量型がトレンド

イチロー(右)らマーリンズの外野手

 ア、ナ両リーグで計5810本塁打を記録した今季のメジャーは、09年以来7年ぶりに5000本を超え本塁打量産時代の再来といわれた。その一方で、野球データ分析サイトで知られるFanGraphsが、面白いデータを紹介している。メジャー全体がパワーアップしてきている中で、外野手に限っては「軽量化」していきているのだという。その分、外野全体のパワーは低下しているが、スピード型選手が増えてきた。

 例えば今季のア・リーグMVP選出で2位に入ったレッドソックスのムーキー・ベッツ(24)は身長175センチ、71キロ。今季リーグ最多の三塁打9を記録したホワイトソックスのアダム・イートン(27)は175センチ、82キロ、今季ゴールドグラブ賞を受賞したブレーブスのエンデル・インシアルテ(26)は175センチ、75キロ、3年連続56盗塁以上を記録するレッズのビリー・ハミルトン(26)は185センチ、73キロだ。今季ア・リーグMVPに輝いたマイク・トラウト(25)のような重量級、04年に本塁打王に輝いたマーリンズのジアンカルロ・スタントン(27)のような超重量級もまだいるものの、軽量級外野手は確かに増えており、目立った活躍もしている。

 若手ばかりでなく、178センチ、88キロのラージェイ・デービスは36歳だが、今季は持ち前の走力が復活し、43盗塁をマークしてア・リーグ盗塁王に輝いた。本人に話を聞いたことがあるが、今季移籍したインディアンスは選手の栄養管理体制がしっかりしており、デービスは水分補給を多くするダイエット法で自身のベスト体重を維持してきたという。

 軽量化の傾向は特に第4の外野手に強くみられ、30年前と比較すると控え外野手には足が遅い強打者タイプより守備力に優れスピードのあるタイプが好まれる傾向がはっきり出ているそうだ。内野に強打の選手が増え、その分、外野手には別の役割が求められる傾向が強くなっているのかもしれない。軽量、スピードといえばマーリンズで来季17年目を迎えるイチロー外野手(43)もそうだが、外野手のこのトレンドが続けば、この先も長く現役続行を目指しているイチローにとっては、朗報といえるだろう。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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トランプ氏には献金なし メジャーリーグと政治献金

 不動産王ドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利したことにより、メジャーにも影響が出るのではとの懸念が出ている。大リーグ機構は今後の新球団新設都市の候補としてメキシコシティを挙げているが、トランプ大統領就任でメキシコとの関係が悪化する可能性も心配されている。

 ところで大リーグ機構は01年から「ポリティカル・アクション・コミッティー(PAC)」という政治献金を行う部署を持っており、今年1月にはワシントンDCにロビー活動のための事務所も開設した。政治的な活動が年々重視されるようになってきたのだ。

 米国では、プロスポーツチームのオーナーが誰にどれだけ政治献金をしたかが公開されており、メジャーリーグ30球団のこの1年の献金状況の詳細を閲覧することができる。それによると、最も多額の政治献金を行ったのはダイヤモンドバックスのケン・ケンドリックス・オーナーで、共和党大統領候補だったマルコ・ルビオ氏に複数回に分けて計70万ドル(約7350万円)を献金したのを始め、別の共和党大統領候補テッド・クルーズ氏ら複数の政治家に70回もの献金を行っていた。

 アスレチックスのジョン・フィッシャー・オーナーはルビオ氏の他、同じく共和党大統領候補のクリス・クリスティー氏、ジェブ・ブッシュ氏らに76度も献金。ジャイアンツのチャールズ・ジョンソン・オーナーも、ジェブ・ブッシュ氏やルビオ氏ら候補者個人の他、共和党の政党自体にも献金、マーリンズのジェフリー・ロリア・オーナーも共和党に複数回献金している。MLB球団オーナーは、共和党大統領候補か共和党自体に献金しているケースが圧倒的に多いが、ドナルド・トランプ氏には誰も献金していない。レッズのボブ・カステリーニ・オーナーなどは「反トランプ」を掲げる政治団体に複数回の献金をしているほどで、トランプ人気は低い。かといって民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏に献金するオーナーも少なく、ドジャース、ツインズ、オリオールズのオーナー以外は見当たらなかった。

 ただし、メジャーのオーナーには球団以外のビジネス経営者である場合も多いため、これらの献金が野球に結び付くものかどうかは不明。レッドソックス、カブス、ヤンキースはこの1年間、政治献金がゼロだった。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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米国も驚き!ウエーバーで青木宣親がアストロズ移籍

東京6大学選抜対ヤクルト 始球式を務めた青木宣親(写真は2016年11月5日)

 カブスが108年ぶりに劇的なワールドシリーズ制覇を果たした翌日、興奮さめやらぬ球界に思わぬニュースが飛び込んできた。

 青木宣親外野手がマリナーズによってウエーバーにかけられ、アストロズが獲得に手を挙げたため移籍したというニュースだった。

 日本でも驚きだったのはもちろんだが、米国でもそれは同様だ。ほとんどの米メディアは、青木がオプションを行使されなかった時点でFAになると思い込んでいたからだ。大リーグ公式サイトのグレッグ・ジョーンズ記者は「(ジャイアンツとの)前の契約では契約終了後にFA権があったため、今回も同じだという誤解が広まっていた。しかしシアトルと昨オフに結んだ契約ではFAになる契約は含まれておらず、来季はアストロズが青木の保有権を持ち、年俸調停の対象者になった」と書いている。

 MLBの規定では、FA権を取得するには普通、メジャー登録日数が6年以上にならなければならないが、日本プロ野球から移籍してきた選手には、メジャーでの年数にかかわらず契約が終了すればFA権が与えられるという例外を適用することが可能になっている。メジャー全選手の契約内容を掲載している有名な契約情報サイトには、青木は確かに昨年1月にジャイアンツと結んだ契約には「契約終了後にFAとなる」という条項が記されているが、昨年12月にマリナーズと結んだ契約にはFAに関する条項の記述がない。

 ただし、こうした契約情報サイトも結局はメディアの報道をもとにして作られているため漏れも当然あるわけで、これによってすべてを判断することもできない。というわけで、青木に関して思い込みが広がっていたと思う。メジャーの契約は複雑で細かいため、長年取材していても分からないことや驚くことに出くわす。選手個々の契約書を見られるわけではないので、思い込みを極力避けるよう心掛けるしかない。

 思い返すと、日本プロ野球から移籍した選手のFAに関する例外的措置が最初に大きくクローズアップされたのは、02年に松井秀喜氏がヤンキースと契約する際に契約条項に盛り込まれたときだったと思う(それ以前には01年に新庄剛志氏がメッツに入団する際にFA条項を入れたそうだ。)当時の代理人アーン・テレム氏とMLB選手会がかなり尽力し、実現したと聞いている。今回の青木の契約にその条項がなかったのは、実に意外だった。

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引退後迷走するシリング氏…かつての英雄どこへ行く

07年、チャンピオントロフィーを手に笑顔を見せるカート・シリング氏

 今季のポストシーズンを見ていて、かつてのポストシーズン・ヒーローだったカート・シリング氏を思い出した。ドジャースのエース左腕クレイトン・カーショーのフル回転ぶりが話題になったが、01年のシリング氏はさらにすごかった。ダイヤモンドバックスでランディ・ジョンソンとエース2枚看板だったが、シリング氏はヤンキースとのワールドシリーズ第1戦で勝利投手となった後、2登板連続で中3日という短い間隔で第4、7戦にも先発しチームを世界一に導いた。ジョンソンも中5日で第2、6戦に先発、連投で第7戦にリリーフ登板して2人が同時MVPに輝いており、絶対的エースを2人抱えればワールドシリーズを制覇できるという実例を示したという点で、当時の米球界に衝撃を与えた。

 今年のア・リーグ優勝決定シリーズ第3戦でインディアンスのトレバー・バウアー投手が登板中に右手小指から大量の流血をして話題になったが、ポストシーズンの流血で思い出されるのもシリング氏だ。レッドソックス時代の04年にヤンキースとのリーグ優勝決定シリーズ第6戦で負傷した足首から出血し、ソックスを血で染めながら力投した試合は、今も語り継がれている。シリング氏ほどタフなエースは、メジャーでは稀だろう。ワールドシリーズに中3日で3試合登板した投手は、01年のシリング氏以降、1人もいない。

 そんなかつての大エースが、引退後は野球以外の話題で世間を騒がせている。数年前に設立したゲーム会社の倒産で全財産を失い、ガンを患って闘病。ガン克服後はESPNの解説者として仕事も順調にいっていたが、数々の失言やマイノリティーに対する差別的発言などで解説の仕事をクビに。その後も差別的発言や超保守的発言をやめず、政治的活動に傾倒するなどして周囲を困惑させている。

 現役時代のシリング氏にインタビューをしたことがある。私に対しても丁寧に話をしてくれ、差別的な人にはまったく感じなかった。当時、自分は軍事オタクだと明かしてくれ、国のために危険な業務に当たる軍人や警官が好きだと話していた。当時から保守的な人ではあったのかもしれないが、ここまで極端な人ではなかった。かつての米球界のヒーローはどこへ向かっていくのか、複雑な思いでいるファンも多いだろう。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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派手からあっさりへシャンパンファイトの微妙な変化

 今年はレギュラーシーズン終盤の地区優勝から始まり、シャンパンファイトを4回ほど取材する機会があった。そこで感じたのは、米球界がどんどん変化を遂げつつある中、メジャーの伝統であるこのシャンパンファイトも、やはり微妙に変わってきているということだ。

 一時期、かなり派手にシャンパンファイトを行うことが流行った時期があるが、今年はあっさり風味のシャンパンファイトが目立ったような気がする。レッドソックスが世界一に輝いた13年頃だっただろうか。当時はまず、使用するシャンパンがかなり凝っており、特別なブランドのものや高級なものを使っていた球団が目立っていた。しかし今年は、シャンパンファイト会場で「Korbel」ブランドのボトルを多く見かけた。米国ではよく知られたカリフォルニアのワインメーカーで、大衆的なブランドだ。シャンパンファイトとはいえ、ビールの方が多く使われているのも最近の傾向かもしれない。中にはジンジャーエールなどのノンアルコール炭酸飲料を結構用意しておくチームもある。レンジャーズなどがそうで、過去にアルコールで問題を抱えていたマット・ブッシュ投手がいるため、そうした選手に配慮してのことだ。

 派手だった頃は、クラブハウスからフィールドに出てきてスタンドに残っているファンにもシャンパンをかけ、はしゃぎ回るということも流行った。しかしファンを巻き込むシャンパンファイトが問題視されるようになり、今はシャンパンをクラブハウス外に持ち出すことはなくなった。10年前はシャンパンファイトの間に必ず葉巻を吸うのも慣例だったが、最近はほとんど見かけなくなっている。

 しかし昔からまったく変わらないのは、必ずクラブハウスの中でシャンパンを浴びせ合うということだ。敵地でシャンパンファイトをするときは、もちろんビジターのクラブハウスで行われるが、ビニールでロッカーを保護するなどしているものの、床はシャンパンやビールでぬかるむほどになる。メジャーのクラブハウスはどこもじゅうたん敷きなので、祝いの後の掃除がさぞ大変だろう。日本のビールかけは冷やさずに使うそうだが、メジャーではシャンパンもビールもしっかり冷やしているのが伝統で、それもいまだに変わっていない。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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メッツ人気に勢い、寂しいヤンキースと明暗くっきり

 メジャーはポストシーズンに突入したが、ニューヨークでは今年1年、ヤンキースとメッツの明暗がくっきりしたシーズンだった。昨季リーグ優勝を果たし15年ぶりにワールドシリーズに進出しているメッツは、今季のシーズン当初から人気面でもヤンキースに負けないほどの勢いで、本拠地シティフィールドは連日満員。テレビの視聴数では今季、ついにヤンキースを完全に上回ったという。先日発表された今季の視聴数は、メッツの中継を放送するケーブルテレビ局SNYは1試合平均26万3850世帯、ヤンキース専属ケーブルテレビ局YESの1試合平均が21万8000世帯、視聴率でいうと、メッツ戦は2・73で、これは08年以降では最高だったという。ヤンキースの視聴数低下は、YESとケーブルテレビ会社がもめているためニューヨーク地区の約90万世帯でYESの放送が視聴できない状態にあることも大きな要因だそうだが、それでもメッツのファン拡大は今季大きく目立っていた。

 5日に行われたジャイアンツとのワイルドカードゲームでは地区シリーズ進出は果たせなかったものの、メッツ本拠地シティフィールドは4万4000人以上の観客が詰め掛ける満員御礼で試合開始から異様な熱気と盛り上がりだった。記者席には両チームの番記者や地元ニューヨークの記者だけでなく、USAトゥデー、ESPN、FOX、スポーツイラストレイテッドなど全米の有名野球ジャーナリストがずらりと顔をそろえていた。メッツの本拠地にこれだけ全米からメディアが集まるのは、おそらくワールドシリーズ以来だったのではないか。

 一方、過去27度世界一に輝いている名門ヤンキースはポストシーズン進出を逃し、メッツのワイルドカードの試合が行われた同じ日に同じニューヨークで、キャッシュマンGMがシーズンを総括する会見を開いた。「ポストシーズン進出は逃したが、若手が活躍し、球団内にはポジティブな空気に満ちている」と前向きに話していたが、出席した記者は普段より半分以下のわずか18人という寂しいものだった。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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あまりにも悲しい日 フェルナンデス投手を悼む

8月8日、ジャイアンツ戦で力投するマーリンズのホセ・フェルナンデス投手

 マーリンズのホセ・フェルナンデス投手が突然のボート事故で亡くなったニュースは、あまりにも衝撃的だった。まだ24歳ながらメジャーを代表する大エースというだけでなく、喜怒哀楽を顔に出す素直な性格から、愛されキャラとしても知られていた。多くのメジャー記者が今、ホセフェルを追悼する記事を書いているのではないかと思う。私も書かずにはいられない。そういう選手だった。

 ホセフェルの、最後の試合になってしまった9月20日の本拠地マーリンズパークでのナショナルズ戦は、ちょうど現地で取材をしていた。8回をわずか3安打、無四球に抑え、無失点で12奪三振をマークする完璧な投球だった。マーリンズパークのホームクラブハウスの入り口脇には小さな会見場があり、そこは毎日、試合後の監督会見に使用されていて、他の目的ではほとんど使われないが、ホセフェルが勝ったときだけは監督会見の後にホセフェルの会見がそこで行われる。彼が登板する日にはキューバの報道陣が何人も来るため、人数の多さに配慮し会見場を使っているのだと思う。マイアミはキューバ移民の街でもあるが、彼ら移民にとっても本国キューバの人々にとっては、ホセフェルは夢と希望の象徴だったのだろうと思うし、マーリンズという球団にとっても特別な存在だった。

 その最後の登板の日も、ホセフェルはその部屋で会見をした。今季ベストといってもいい登板の後だけに、実にいい表情をしていた。最後の報道陣とのやりとりは「これが今季最後の登板になるのか?」という内容だった。肘の靱帯(じんたい)手術から復帰し2年目になるホセフェルにはまだ投球回制限が必要ではないかという話が出ており、残りのシーズンは登板を回避する可能性もあるのではといわれていた。ホセフェルは「分からない。僕は監督じゃないから」と答え、それが会見での最後の言葉だった。まさかそれが今季最後どころか人生最後の登板になってしまうとは、誰が想像しただろう。9月25日は、ホセフェルを知っているすべての人にとって、あまりにも悲しい日になった。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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“お騒がせ男”プイグは人一倍、人生を謳歌してる?

 ドジャースのヤシエル・プイグ外野手といえば「メジャー一のお騒がせ男」として有名だが、今季も話題にこと欠かなかった。開幕前からのトレードのうわさが今も絶えず、太もも裏のケガやマイナー降格といった試練もあったが、派手な話題も多く、現れるところには何かしら騒動が起こった。

 先日、ドジャースがヤンキースタジアムでの3連戦で遠征に訪れたときも、思わぬ出来事が起こった。初戦に途中出場し右翼の守備に就いたプイグは、9回最後の打者のフライを捕球し、それをスタンドのファンにプレゼントするためにトスした。ところがボールを投げられた若い女性ファンはキャッチする態勢にあらず、なんと顔面でボールを受けて前歯が完全に折れてしまった。女性ファンはニューヨークの地元紙に「ボールが来るのが見えたけど、グローブを持っていないととっさに思って、顔の前に両手を出して捕ろうとしたけど顔に当たったの。最初はそれほど痛くなかったけど、気付いたら舌に穴が開いていて、ふと手を見たら歯があったの」と話している。気の毒なケガだったが、地元記者がわざわざ話を聞きにいって記事にしていることに驚いた。やはり、それがお騒がせのプイグだからだろう。

 しかしチームのお荷物といわれようと、トレードのうわさがつきまとおうと、メジャー4年目で初のマイナー落ちになろうと、本人はまったく何も気にしていない様子。試練のシーズンだったという雰囲気はみじんも感じさせない。ドジャースのマイアミ遠征最終日の9月11日、前田ら新人が恒例の仮装を行った。チアリーダーのコスプレで次の遠征先ニューヨークに移動したことが話題になったが、新人でもないプイグがなぜか同じチアリーダーのコスプレを着て踊っている動画をSNSに投稿し、自ら進んで笑いを巻き起こしていたほどだった。

 ニューヨークでも、前田と日本の報道陣が集まっているところにプイグが飛び入り参加し、前田と肩を組んでおどけ、笑いを誘っていた。ある米メディアは「彼は人一倍、人生を謳歌(おうか)しているのだろう」と書いていた。見習いたいものである。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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期待の若手に注目 セプテンバー・コールアップ

 9月は「セプテンバー・コールアップ」の季節。メジャーの出場選手登録枠は4月から8月までは25人だが、9月からレギュラーシーズン最終日までは40人に拡大され、各球団は来季に向けて若手を試すため、あるいはペナント争いの戦力になる期待の若手らをマイナーからコールアップ(呼ぶ)する。9月1日の枠拡大初日、マーリンズのクラブハウスにいると、試合開始予定の約3時間前にコールアップされた若手4人が球場入りしたところに出くわした。まだ暑い時期だったのでジャケットこそ着用していながったがネクタイ姿の若者たちは初々しく、うれしくて仕方がないといった表情をしていた。春のキャンプ以来再会した先輩らと次々とハグをかわし、温かい歓迎を受けると笑顔が弾けた。見ている方もほっこりする、ほほ笑ましいシーンだった。

 このセプテンバー・コールアップのシステムが、メジャーでいつどのようにして始まったのかは野球歴史家でもはっきりと分からないそうだが、1910年頃にはすでに始まっていたというから、かなり初期の頃からの慣例のようだ。枠が40人に拡大されるとはいっても、どのチームも40人の枠をいっぱいにするわけではなく、コールアップする人数は球団によってさまざま。ヤンキースなどは毎年9月、多くの選手を加えるので、広いクラブハウスでもすし詰め状態になり、若手は1つのロッカーを2人でシェアして使用している。

 今年のセプテンバー・コールアップの中で注目を集めているのはレッドソックスのヨアン・モンカダ内野手(21)だろう。キューバ生まれのモンカダは亡命ではなく政府の許可を得て14年に出国し、15年2月にレッドソックスと契約。ベースボール・アメリカ誌が選ぶ全米ナンバーワン有望株に選ばれるなど評価が高まり、3Aを飛び越えて2Aからのメジャー昇格となった。

 ただし、昨今は有望な若手がシーズン中にどんどん昇格する傾向にあるため、セプテンバー・コールアップはかつてほど話題性は薄れてきている。言い換えれば、若手が抜てきされることが、昔より当たり前になってきたということだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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SNSがきっかけ、ヤンキースの大胆な若返り

 ヤンキースが大きな話題を集めている。主力の多くを放出し、アレックス・ロドリゲスやマーク・テシェイラといったチームを支えたベテランたちが相次いで引退を決めてチーム構想から外れたりと、急激に若返りを進めている。常勝を義務付けられている名門球団にとって、シーズンなかばでの終戦を示すような大胆な若返りはかつてなく、驚いた人は多かった。

 ところが、この若返りによってメジャーに昇格してきた若手が活躍し、チームはむしろ良い状態になっている。注目株のランク付けで定評のあるベースボール・アメリカ誌で、15年に全球団の36位にランクされたゲーリー・サンチェス捕手(23)は、メジャーデビューから最初の22試合で10本塁打、30安打を記録したメジャー史上初の選手となった。今や打線の要になっているだけでなく、田中将大投手とのバッテリーで好リードを見せるなど、攻守に渡って活躍している。大型長期契約中のベテランをいまだ抱えた状態というマイナス面はあるものの、大胆な若返りは今のところ成功しているといっていい。

 ヤンキースという球団にとって、かつてならあり得なかった若返りという大ナタは、実はSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)がきっかけだったという。今年のキャンプ時期、ハル・スタインブレナー・オーナーがツイッターでファンの反応などをチェックすると、期待の若手一塁手グレッグ・バードのメジャー昇格を強く望む声を数多く見た。さらに球団の有力スポンサーらからもバードを望む声が上がった。そのとき同オーナーは、ヤンキース周辺やファンの間で若手を抜てきしようという土壌ができてきたと感じたそうだ。バードは肩を故障したため今季1年間を棒に振ってしまったが、オーナーはバードの代わりにサンチェスら若手への切り替えを決断するに至った。これまであり得なかったことをSNSが変えたというのは、まさに時代である。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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数々の改革進めるマンフレッド氏、真価はシーズン後

 ロブ・マンフレッド・コミッショナーを取材する機会があり、初めて間近でコミッショナーの話を聞いた。ニューヨーク州生まれのコミッショナーは、子どもの頃からヤンキースファンだったそうだが野球のプレー経験はないようで、ハーバード大学のロースクールを卒業後は法務の道を歩み、スポーツとは無縁の世界にいた。それが労使交渉等で大リーグ機構とかかわるようになり、そのうち機構に入って労使や禁止薬物規定の交渉に携わり、コミッショナーに就任するまではCOO(最高執行責任者)を務めた。この経歴から、人というイメージを持っていた。

 ところが間近で話を聞くと、イメージは変わった。マーリンズの本拠地マーリンズパークで来年7月に開催されるオールスター戦のロゴマークお披露目セレモニーの際に取材をする機会があったのだが、セレモニー後に球場内の報道関係者が使う部屋で会見をするというので待っていると、コミッショナーはにこやかな表情で愛想良く部屋に入ってきた。前任者のバド・セリグ氏は身長190センチはありそうな大柄な方だったが、マンフレッド・コミッショナーは想像していたよりも小柄で、親しみやすい雰囲気を持っている。

 ちょうどイチローがメジャー通算3000安打に近づいているときで報道陣の数が多く、4畳くらいの部屋がぎゅうぎゅう詰めで、顔を突き合わせるような至近距離で報道陣に囲まれるという異様な状況だったが、嫌な顔1つ見せなかった。報道陣からは矢継ぎ早に質問が飛び、しかも内容は今後の時短対策から20年東京五輪、キューバとの今後の関係、イチローの記録に至るまであらゆるトピックを網羅していたが、コミッショナーはまるで立て板に水のごとく鮮やかな弁舌ですべてに答えていった。話す言葉も非常に聞きやすい。米国人の話し言葉は主語が省略されていたり、文法がでたらめだったりすることがほとんどだが、コミッショナーの場合は教科書に出てくるようなきちんとした文法で話すので、聞き取るのが非常にラクなのだ。米国のエリートとはまさにこういうタイプだという見本のような人だと思う。

 実際の仕事ぶりはというと就任以来、時短など数々の改革を進め、今後は投手交代の制限や試合数削減など難しい目標を掲げている。改革が過激だという批判的な声も上がる中、メジャーという最高峰のリーグをより良い方向に導けるのか。今季終了後に現在の労使協定が契約切れとなり、新たな労使協定を結ぶことになるが、そのときコミッショナーの真価が問われるだろう。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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Aロッド、現役継続危機…極度の不振で出場機会激減

 メジャー通算700本塁打にあと4と迫っているヤンキースの指名打者アレックス・ロドリゲス(41)が、現役継続危機に陥っている。禁止薬物使用による1年間の出場停止処分から復帰した昨季は本塁打35本をマークし、打撃健在ぶりをアピールした。だが、今季は深刻な不振で前半戦の途中からレギュラーの座を剥奪され、相手先発が左腕のときなどはスタメンを外され、さらにはスタメン出場も徐々に減らされるようになった。イチローが通算3000安打、A・ロッドが700本塁打を達成すれば、メジャーでは史上初の3000安打と700本塁打の1シーズン同時達成になるが、今の状況ではそれも厳しそうだ。

 A・ロッドは08年から結んだ10年の大型契約が来季まで残っており、来季年俸は2100万ドル(約22億円)。さらに660本塁打から763本塁打までは節目の記録ごとに600万ドル(約6億3000万円)のボーナスが付くことになっているが、年齢的衰えが顕著な高額年俸選手の処遇を巡って球団も揺れているようだ。キャッシュマンGMは最近行った会見で、A・ロッドについて問われると「彼に関しては、監督とコーチの考えに一任する。試合に勝つためにベストの打線を組むことを最優先にしてもらいたい」と、A・ロッドを特別扱いしないことを明言。ジラルディ監督は「彼とは起用について話をしているし、彼を試合に出す機会を探している。状況に応じて代打で起用するなど考えている。彼には辛い状況かもしれないが、私もつらい。こういうケースには感情的な部分も混じってくるし、関わっている全員に精神的負担がかかってくる。彼にとっても球団にとっても私にとっても難しい状況だ」と、苦悩の表情で話していた。A・ロッド自身は「何が起ころうと、僕は冷静に受け止める。(トレードにより)有望な若手が多数加わったヤンキースの未来は明るい。僕自身もその将来の構想の中にいたいけれど、もしそうでなければ、それを受け入れることはできる」とすでに腹をくくっている様子。禁止薬物使用などのスキャンダルもあったが、一時はメジャー最高年俸の球界を代表する選手だっただけに、この現役晩年の状況は寂しい限りだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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イチロー3000安打の裏で話題集める出場機会

 マーリンズのイチロー外野手が、メジャー通算3000安打という偉大な記録で大きな注目を集めているが、その一方で今季たびたび話題になるのが、イチローの出場機会の話だ。節目の大記録達成を控えていることもあって今季は開幕の頃から日本メディアだけでなく米メディアもイチローを気に掛けており、米国人記者が「イチロー、出ないの?」「何で出ないの?」と言うのを何度か聞いた。4番目の外野手なのでそれほど出番が多くないのは当然なのだが、思ったよりも少ないという感想を持っているメディア関係者は多いかもしれない。

 イチローが予想を超えるペースで安打を重ねていることも、その思いに拍車をかける。マッティングリー監督の会見のときに「これだけ打っているイチローをコンスタントに起用できないのはタフなのでは?」と質問する米国人記者もいる。先日「イチローの今季の働きに驚いているか?」と聞いた記者もいた。それに対して同監督は「ちょっと驚いている。今季の働きについて、どうしてなのか説明はできないけれどね。打撃だけでなくすべての面で素晴らしいのは驚きだ。この年齢でもいまだに素晴らしい守備力だしね。アメージングだよ」と答えている。

 さらに昨季のイチローの成績を振り返り「昨季の数字から、今季、3割3分以上打つだろうとは予想できなかった。昨季153試合も出場しているのを見て、オーマイガーッ、こりゃクレイジーだと思った」とも話している。現在のメジャーでは若手が重用され、年長の選手にチャンスが与えられることはかつてより少なくなっているため、同監督もそのような感覚だったのだろう。

 しかしイチローは、自らの力でその既成概念を覆しつつある。恐らくマッティングリー監督にとっては、現状でも当初の想定以上にイチローを起用している感覚なのかもしれない。開幕前、あるスポーツ関連サイトでは、イチローの今季を「235打数、58安打、25得点、1本塁打、17打点、7盗塁、打率2割4分8厘、出塁率2割9分3厘、長打率3割7厘、OPS6割、15四球、35三振」と予想していた。現時点で、打席数はこの予想より30~40多くなりそうなペースではある。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

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