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ドコモspモード版 ワールドベースボール

外国人記者の目 イチロー

イチローがホームランでシアトルのファンにお礼をした

シアトルのファンの声援に応えるイチロー。(Getty Images)

Ichiro salutes Seattle fans with a home run wallop

 イチローは先週、15打数1安打、打率6分7厘という成績とともに、慣れ親しんだシアトルに戻ってきた。数字だけを捉えれば、およそ3年ぶりにイチローの姿を見るファンは目を疑ったかもしれない。

 ただ、現地4月19日のシリーズ最終戦、しかもセーフコフィールドでの最後になるかもしれない打席でイチローは右中間スタンドにホームランを叩き込んだ。2001年から2012年の7月までマリナーズでプレーしたイチローに対して、ファンはシリーズの初戦から打席に立つたびにスタンディングオベーションで声援を送った。イチローはその声に最高の形で応えたことになる。

 試合後、「これが(このシリーズで)最後の打席でしたし、最後のチャンスでした」と話したイチロー。狙ったとは言わなかったが、「なんとかしてヒットを打ちたかった」と口にしている。しかし、それがホームランとは本人も予測していなかった。

「ボールがフェンスを越えた時、本当かとほっぺたをつねりました」

 イチローにとってメジャーリーグでの115本目の本塁打は、セーフコフィールドでの54本目となり、マリナーズを相手に打ったのは初めて。イチローも「忘れられないものになる」と少し感傷的だった。

 ところでそのホームランボールが戻ってきた。ファンが自ら申し出たそうだ。イチローもその思いが嬉しく、サイン入りのボールとバットをプレゼントした。

 さて、現実的に考えれば、やはりあのホームランの打席が、イチローにとって思い出深いセーフコフィールドでの最後だろう。

 このままマーリンズでプレーを続けたとしても、次にシアトルに来るのは2023年。交流戦のローテーションは変わることもあるので、もっと先になる可能性もゼロではない。

 ただ、「そんな意識はなかった」とイチロー。

「また戻ってくると思います。次の試合がいつになるかはわかりませんが、出来れば戻ってきたい」

 仮にマリナーズに復帰すればそれは叶うが、その可能性がないわけではない。というのも、マーリンズは遅かれ早かれオーナーが変わる。となると、1年契約のイチローのチームでの去就も不透明だ。そこでマリナーズが最後のチャンスを与えることもあり得よう。

 最後の一言は、そんな可能性をも示唆したのかもしれない。

【クラーク・スペンサー】

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イチローがバットを振らずに記録した“ヒット”とは…?

出場機会が増えてくることが予想されるイチロー。(Getty Images)

Ichiro credited with a hit without swinging the bat

 8日、ようやくイチローにヒットが出た。といっても、開幕からの5試合で打席に立ったのは3回だけ。これではイチローとしてもどうしようもなかったが、実は安打数が“0・5”でもおかしくなかった。奇妙な話だが、これは元中日の左腕チェン・ウェインに聞けば、彼も同意するだろう。

 そのチェンは、メジャーリーグに来てから昨季まで1本もヒットがなかった。昨年は内野安打が試合途中で失策に変更されるという不運もあり、無安打記録は7日に行われたメッツ戦の1打席目に三振を喫して51打席連続となった。しかし、2打席目にショートへの内野安打を放ち、ついにメジャー初ヒットをマークした。

 デビューから51打席無安打はメジャー史上4番目に長い記録だという。チェンが一塁を駆け抜けると、マーリンズのダグアウトはやんややんやの大喝采。チェン自身、「メッツを抑えて勝ち投手になったことよりもうれしい」と話すほどだった。

 ただその裏には、イチローのちょっとした貢献があった。

 チェンによれば、あの日はイチローが隣に座ってくれていたのだという。そこで何かアドバイスをもらったわけでもないが、「横にいてくれたことが、ヒットに繋がったのではないか」と左腕は口にした。

「彼のオーラがこっちに乗り移った(笑)」

 よってチェンは、イチローが必要とするなら、いつでも“0・5本”のヒットを譲るだろう。

 前置きが長くなったが、開幕5試合で3打席だけとは、イチローの出場機会が少ない。守ったのも1イニングのみ。これまでと比べても少ない印象を受けるが、だからといって今季はイチローのプレータイムが大幅に減るかといえばそうではなく、ドン・マッティングリー監督は、昨年までと同じペースで起用する見込みだ。今は選手にも疲れがないので、こうなっているに過ぎない。もう少しすれば、レギュラーの外野手にも休みが必要となる。そうなればイチローがスタメンに名を連ねることも多くなるだろう。

 そもそもマーリンズは4人しか控え野手がおらず、そのうち1人は捕手なので実質的には3人。となれば、必然的にイチローらはフル活用されることになる。遅かれ早かれ、フィールドでイチローの姿を目にすることになるはずだ。

【クラーク・スペンサー】

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イチローが2週間の離脱から戻ってきた

2週間の離脱が“結果オーライ”に?(Getty Images)

Ichiro returns after two-week absence

 およそ2週間の離脱を経てイチローがユニホームに袖を通し、スパイクの紐をしっかりと結び直した。

 もちろん、イチローが戻ってこないと予想した人はいなかったが、過去にこういうことがほとんどなかっただけに、リハビリから復帰に至る過程ではその一挙手一投足が注目された。毎朝、我々メディアがドン・マッティングリー監督にイチローの状態を尋ねるのも日課だった。

 ケガをしたのは2月21日のこと。外野のコミュニケーションドリル、つまり、声かけの練習でブランドン・バーンズ外野手が、イチローと交錯した。センターのイチローに優先権があったが、ライトのバーンズにはイチローの声が聞こえなかったようだ。あのときイチローは、右ひざの上を打撲し、同時に腰を痛めた。ひざよりも腰の状態の方が深刻で、それで試合復帰まで時間を要したわけだが、日本のレジェンドが5日、ついにフィールドに戻ってきた。

 その復帰戦。率直なところ、イチローは何を思ったのか。

「43歳ですから、最初のゲームはこれまでより少し遅くてもいいと思います」

 そんなジョークを飛ばしたイチローだったが、実際は、「(リハビリの日々は)楽しくはなかった」と話し、続けている。

「健康が一番というのは、この程度のけがでも思います。大病した人の思いが想像できる」

 復帰初戦は指名打者での出場。6日の試合は欠場し、7日から外野でスタメン出場した。同じく外野のジャンカルロ・スタントンとクリスチャン・イエリチが、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に参加するためチームを抜けたので、仮に、米国が早々に敗れれば話は違ってくるものの、イチローには開幕まで十分な出場機会がある見込み。調整時間が足りない、ということはないだろう。

 ところで今回のことは不運だったが、結果オーライになるかもしれない。

 というのも、イチローも自分で口にしているが、オープン戦デビューが遅れたことで、体を休めることが出来た。今年はWBCの関係でキャンプが長いだけに、ベテランの彼にとってはそういう時間が必要だったともいえる。実際にそうなれば、ケガをさせてしまったバーンズもホッとすることだろう。

【クラーク・スペンサー】

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新オーナーはイチローの将来に影響を与えるかもしれない

オーナーの交代はイチローにも影響か。(Getty Images)

New ownership could impact Ichiro's future in Miami

 まず、はっきりさせておきたいが、チームのフロント、監督、コーチ、チームメートは43歳のイチローを愛している。彼に対する敬意はそれを十分すぎるぐらい表している。そもそもチームのオーナーであるジェフリー・ローリアのイチローへの愛情は半端なものではない。

 2年前にイチローの獲得を強く主張したのがローリアだった。2度目の契約でもローリアはそれを積極的に押し進めた。彼こそイチローの最大のファンであり、そのことに異論を挟むことは出来ない。

 ところが今、そのローリアがチームからいなくなるかもしれない。彼は現在、チームを売却しようとしており、さらにはフランス大使の候補にもなっている。そこにはまだ不透明な部分が多いが、そうなった場合、イチローは最大の理解者を失うことになる。もちろん、影響を受ける選手はイチローだけではないだろう。

 今季の開幕に関してはイチローがマーリンズのユニホームを着て迎えることは確実だが、問題は来季。イチローの契約は球団に選択権があるため、チームが契約するかどうかの決定権を持つ。オーナーが変わらなければ、おそらくそのままオプションが行使され、イチローが残留する可能性は高い。しかし、仮にオーナーが変わったらどうか。そのとき、イチローの来季は白紙となる。

 彼は昨季、まだまだ通用すると証明し、2割9分1厘という打率を残した。今季もおそらく控えの役割を任されることになるが、外野に関しては彼以外に控えが必要ないので、チームは通常の12人ではなく、13人の投手をベンチ入りさせる予定だ。彼に対する信頼感がそういう決断を導いたのだ。

 メジャー通算3030安打を放っているイチローがこのままヒットを重ねれば、あと31本で、ロッド・カルー(3053安打)、リッキー・ヘンダーソン(3055安打)、クレイグ・ビジオ(3060安打)の3人を抜いて歴代安打数が22位となる。いずれも今年中に可能だろう。マーリンズとしてはその過程をぜひとも共有したい。

 しかし、先ほども触れたように、ローリア次第でイチローの去就も変わりうる。

 仮に夏までに売却が完了した場合、チームがプレーオフ争いから脱落し、その一方でイチローが好調ならば、その時点でトレードされることだってありうる。もちろんそれはイチローだけでなく、新オーナーの方針次第では誰にとっても移籍は現実的となる。

 さて、ローリアはどう決断するのか。目が離せなくなってきた。

【クラーク・スペンサー】

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イチローは、もっと長くマーリンズに残るかもしれない

来季もマーリンズでプレーするイチロー。(Getty Images)


Ichiro will remain with the Miami Marlins in 2017, and perhaps longer

 ドン・マッティングリー監督はシーズン前、イチローのことをそれほど理解していなかったよう。しかし、今は違う。マーリンズは5日に総括会見を開いて、間もなく43歳になるイチローのオプションを行使し、さらには2018年の契約選択権も追加したと発表した。マッティングリー監督は、イチローをチームになくてはならない存在と評価しているのだ。

「もう年齢のこととか、それに関わることを話題にするのは止めよう。第4の外野手としてイチローがチームにもたらしたことを考えれば、どのチームも彼を欲しがるはずだ」。

 今年春、マッティングリー監督こそが、イチローの年齢に懸念を示し、昨年終盤に失速したことを「使いすぎ」などと捉え、今季は42歳のイチローが「疲れないように使う」と起用法を想定したわけだが、シーズンに入ると「どれだけ使ったのか、気にもしなかった」そうだ。昨季は、打率2割2分9厘と低迷したものの、今年は打率2割9分1厘と復活。衰えた、疲れた、という言葉で彼を括ることは出来なくなった。

 同席したデービッド・サムソン球団社長によれば、イチローは「50歳までプレーしたい」と言ったそう。サムソン社長もそれに対して、こう応じている。

「毎年、50歳に近づいている。そのまま50歳に達するんじゃないかと思う。それは我々にとって問題はない」

 そして、イチローがチームに必要な選手である限り、サムソンはイチローとの「契約を続ける」という。

「今回、2018年のオプションをつけたわけだが、すぐにでも、2019年をどうしようか、心配になるかもしれない」

 イチローとの再契約は、ホセ・フェルナンデスの急死で沈んでいたチームメート、マイアミのファンにとって、久々に明るいニュースとなった。イチローの復帰は、多少なりとも彼らの安らぎとなる。なぜなら、ファンはイチローを愛している。チームメートも彼のことを愛しているのだから。イチローとマーリンズの関係は、まだまだ続きそうだ。

【クラーク・スペンサー】

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イチローは8月に苦しんだが、9月になり蘇った

今季、予想を超える活躍を見せているイチロー。(Getty Images)

After a poor August, Ichiro has bounced back to life in September

 昨年の今頃、イチローは低迷していた。9月の月間打率は1割4分3厘。月間打率としてはキャリア最低だった。するとあのとき、我々はこう考えた。

「イチローも年齢による衰えを見せた」

「41歳の彼には162試合は長い」

「スタメン出場が多すぎたから、最後まで体力が持たなかった」

 よって昨年のシーズン終了後、すぐにマーリンズがイチローと再契約したときには驚いたわけだが、考えてみればマーリンズは、シーズンが終ってから結論を出したわけではないのだろう。もっと早い段階で、合意していたのではないか。その決断が正しかったことが今年、証明された。逆に我々は、恥ずかしい思いをすることになった。今年は開幕から打率3割を打ち、開幕前に微妙と見られた大リーグ通算3000安打には8月に到達。予想を超える活躍を見せている。

 それでも8月、イチローの月間打率は2割9厘に低迷。今年も疲れを見せ始めたかと思いきや、今月は19日現在、月間打率が2割9分4厘で、残り試合次第では、今季の打率が3割に戻る可能性が出てきた。昨年の失速はもはや過去のことだ。

 ただ残念ながら、そのイチローの活躍がチームの勝ちに繋がることは少なかった。マーリンズは中盤までプレーオフ争いを続けていたが、9月に入って徐々に後退。今もまだ、数字上はワイルドカードでのポストシーズン進出の可能性は残っているものの、厳しいと言わざるを得ない。イチローではなく、チーム全体に162試合を戦い抜く力がなかった。

 さて、ジャンカルロ・スタントンが故障から復帰した。マルセル・オズナも戻って来た。これで、イチローのスタメン出場の機会が少なくなると感じているかもしれないが、決してそうではない。スタントンはまだ、100%の力で走れない。守備も同様。さらには休みも必要だ。となるとマーリンズはまだまだ、イチローに頼らなければならない。

 そして来年もまた、マーリンズはイチローに頼ることになる。来季の契約に関してはチームがオプションを持っているが、行使することは確実。来季もイチローはマイアミのユニフォームを着ることになりそうだ。

【クラーク・スペンサー】

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イチローは来季もマーリンズが濃厚だ

イチローは来季もマーリンズでプレーすることが予想される。(Getty Images)

Ichiro will likely stay put in Miami next season

 イチローは2017年にシアトルに戻る。もっともそれは、数日のことだが。

 現時点でまだ来季のスケジュールが発表されていないが、関係者によれば、マーリンズはマリナーズとのインターリーグ戦でシアトルに遠征することが濃厚だという。

 来月43才になるイチローの契約は今季限りで一旦切れ、来季はチームオプションとなっているが、マーリンズはそれを行使すると予想されている。となれば、イチローは最低でもあと1年はマーリンズでプレーすることになり、来季のシアトル凱旋もあり得る。

 ちなみに、マーリンズがオプションを行使した場合の年俸は200万ドルだが、チームとしてはその額に十分値すると考えているよう。

 いくつかの要素があるが、まず、マーリンズとマーリンズファンはイチローのことが大好きだ。また、チームメイトらはイチローのことを尊敬し、手本としている。さらに、彼は年齢にかかわらず、チームに十分貢献出来る選手であることを証明している。

 イチローはもう、かつてのように年間200安打を打つ選手ではないが、他チームの第4の外野手に比べて出場機会が多いのは、戦力として計算できる選手でもあるからだ。

 また、保険的な意味合いも大きい。

 確かにマーリンズの外野陣──ジャンカルロ・スタントン、クリスチャン・イエリチ、マルセル・オズナの3人は、メジャーリーグでも屈指のトリオだ。しかし、スタントンの場合、ケガが少なくない。

 スタントンは、6日に左脚付け根の負傷から復帰したが、危うく3年連続でシーズン途中に終了となるところだった。いや、まだその可能性はある。よって、マーリンズは当然、3年前に北米プロスポーツ史上最高額となる13年総額3億2500万ドルで契約したスタントンの状態に懸念を持っており、ケガをしないイチローが控えにいることは、心強い。仮にイチローがバットで貢献できなくても、守備と走塁で十分に戦力になると考えているのだ。

【クラーク・スペンサー】

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マーリンズはまた、イチローに頼る

プレーオフ進出へ期待のかかるイチロー。(Getty Images)

Marlins turn to Ichiro in time of need

 イチローがまた、スタメンに戻った。マーリンズは今、年を取らない42歳のイチローに、ワールドシリーズを制した2003年以来のプレーオフ進出を託すことになる。

 またか、という流れだ。今年はここまで、外野のレギュラー3人、ジャンカルロ・スタントン、クリスチャン・イエリチ、マルセル・オズナが昨年とは違って、大きなケガをすることなく、順調にシーズンを過ごしていた。ところが先日、スタントンは走塁中に二塁ベースの手前で倒れ込んだ。左脚の付け根を痛めたのだ。その瞬間、去年同様に長期離脱が決まった。

 現時点でチームは今季中の復帰を見込むも、戻れるとしたら早くてもプレーオフではないか。となると、マーリンズがポストシーズンを逃した場合、彼の姿を今季、もうフィールドで見ることはないかもしれない。今年はまだプレーオフ進出のチャンスが残されている。そういう状況で主砲スタントンの欠場は痛手だが、マーリンズにはイチローがいる。控えの中で純粋な外野手はイチローだけであり、当然ながらイチローが残り6週間、スタントンに代わってスタメンに入ることになる。

 ただ、だからといってチームは、スタントンのようにホームランを打つことをイチローに求めているわけではない。イチローが出来ることをしてくれれば十分。加えて、フィールド上でベテランのリーダーシップを発揮してくれれば、と考えている。そのイチローが出来ることの中で、走ること、守ることはスタントンを上回る。懸念があるとしたら、打撃ではないか。

 実は昨年も、スタントンの長期欠場にともなってイチローがスタメンを務めた。ところが、疲れが出たのか、9月は1割4分3厘と低迷した。もし今年もスタメンが続く中で疲れを見せ、同じように打撃が低迷すれば、プレーオフを目指す中でチームに大きな影響をもたらすかもしれない。9月の戦いは、チームにとってもちろん大切だが、そこでイチローがどんな結果を残せるかもまた、重要であり、彼の真価が問われる。プレーオフに導けるかどうか。彼にかかる期待は大きい。

【クラーク・スペンサー】

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イチローの3000本安打は、すべての人に喜びを与えた

7日のロッキーズ戦でメジャー通算3000安打に到達したイチロー。(Getty Images)

Ichiro brings joy to everyone with 3,000th major league hit

 イチローがメジャー通算3000本安打を達成した7日のロッキーズ戦の試合後、クラブハウスの小さなテーブルの上に、シャンパングラスがたくさん残されていた。

 お祝いは終わりである。泡も消えた。

 他の選手はさっそく移動の準備に取りかかったが、イチローには仕事が残っていた。話をしなければならない。マイアミへ戻る飛行機に乗る前、日米の会見が残っていた。

 最初は米メディアから。我々を前にしたイチローは、質問を受ける前にまず、マーリンズのチームメイトに感謝の言葉を述べた。

「あんなに達成した瞬間にチームメイトが喜んでくれて…。僕にとって3000という数字よりも、僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとっては大切」

 そのとき、もちろんイチローは真剣だったものの、やがて会見場は度々笑いに包まれるようになった。例えば、あの試合では4打席目にヒットが出たわけだが、最初の3打席のプレッシャーをこう表現した。

「最初の3打席は、まるで体が(チームメイトで体が大きい)ジャスティン・ボアのようだった。とにかく重かった」

 そしてイチローは続ける。

「ようやく(3000本目の)ヒットを打ったとき、体が軽くなった」

 あのとき、みんなが爆笑した。その後も度々、イチローはジョークを飛ばしている。

 一方、私が“この1本が出るまでの苦しみ”について質問すると、彼は言葉に詰まり、うつむく。やがて顔を上げると、目が真っ赤だった。

「とにかく時間がかかった」とイチロー。「(プレッシャーを)2週間ほど、感じていた。届かなくて、毎晩、代打で…難しかった」。

 冗談を言って笑わせるのもイチローなら、こうやって胸の内をさらすのもイチローだ。今回の会見では、その両面が出ていた。

 さて、3000本安打達成の瞬間、私はスマートフォンでビデオを撮影していた。あとで見直して見ると、自分がどこにいるのか、分からなくなった。

 球場は間違いなく、ロッキーズの本拠地クアーズフィールドだ。しかし、あの声援は、敵地のものではなかった。まず、打球がライト方向に飛んだ瞬間、大きな歓声が上がる。そして打球がフェンスを直撃した瞬間、そのボリュームが一段と上がった。彼らは、敵の選手に対し、ホームの選手以上に声を張り上げていたのである。あんな瞬間になかなか立ち会えるものではない。

 イチローはフィールドでファンに頭を下げ、会見ではチームメイトに感謝の言葉を残した。私個人としては、イチローに感謝したい。素晴らしい3000本安打達成の瞬間を味わわせてもらった。

【クラーク・スペンサー】

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イチローはホーム連戦の多くで眠っていた

イチローはホーム10連戦で3000本安打達成ならず。(Getty Images)

Ichiro spends most of home stand in hibernation

 ドン・マッティングリー監督は、パーティ好きの人間ではない。かといって、楽しみをつぶすような人間でもない。本当に、人がいい。彼もイチローの3000本安打を見たいと思っている。

 しかし、前回のホーム10連戦で彼は、まるで、チャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』に出てくる冷徹な老人エベニーザ・スクルージのようだった。

 あのホーム連戦では誰もがイチローの3000本安打を見たいと願った。彼が打席に立つたび、凄まじい声援が飛んだ。しかし監督は起用を限定し、イチローは多くの時間をベンチの中で過ごさざるをえなかった。

 その扱いを見て、なぜイチローを使わないんだと思ったのは、日本のファンだけではない。マイアミのファンも同じ。多くの日本のファン同様、彼らはその目でイチローの記録を見られなくなったのである。

 仕方がない?

 どうだろう。マッティングリー監督は10試合のうち、イチローを2試合でスタメン起用した。普通の状況なら、順当な起用だ。ただ、記録がかかっている状況を考えると、もっとスタメン出場の機会を与えても良かったのではないか。少なくとも最終戦はそうした舞台を用意しても良かった。

 ただ、チームの状況を考えれば、ファンの前でイチローに3000本安打を打たせるより、勝ちを優先しなければ状況でもあった。

 目下チームは、プレーオフ進出を争っている。そのためには、ベストな3人──ジャンカルロ・スタントン、クリスチャン・イエリッチ、マルセル・オズーナで試合に臨まざるをえない。仮に、彼らのうちの誰かが不振に陥っているとしたら、イチローを代わりに、ということも考えられるが、決してそういう状況でもない。

 そのマッティングリー監督の采配も否定できないが、大リーグがビジネスであるなら、記録も大切なその一要素だ。

 監督としては今、ジレンマを抱えているのだろう。勝つことと記録を達成させることをなんとか両立させられないか。

 そういう中で今、監督は3日の試合でイチローをスタメン起用すべきかどうか、頭を悩ませている。

【クラーク・スペンサー】

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イチローのプレーは42歳ではなく全盛期のようだ

今季はここまで打率3割以上と好調を維持しているイチロー。(Getty Images)

Ichiro playing like a player in his prime, not a 42-year-old

 イチローは今、とても42歳とは思えない。

 もちろん現在は、3000本安打にフォーカスが当たっているが、彼はこれまでのどの42歳の現役選手も感じたことのないような楽しさを味わっているのではないか。

 18日現在の打率は3割4分5厘だが、もしも残り2カ月半、この打率を維持できれば、42歳以上の選手では、最高打率となる。

 通常、この年齢になれば、多くが故障をしたり、長年の疲れの蓄積から走るスピード、スイングスピードが衰えたりするものだが、昔と変わらず、ヒットを打ち続けている。

「信じられないよ」とは、マーリンズのドン・マッティングリー監督。

「前提が覆されている」

 過去、42歳以上の選手が打率3割を記録したのは6人しかおらず、最高打率はトニー・ペレス(レッズなど)が1985年に記録した3割2分8厘となっている。

 また、今季のイチローの打率は、195打席以上の選手では、ナショナルズのダニエル・マーフィーの3割5分に次いでリーグ2位。

 イチローが昨季、2割2分9厘だったことを考えれば、今季の活躍は誰も予測できなかった。

「少し驚いた」とマッティングリー監督は言う。「去年の成績を見れば、3割3分を打つなんて、思わないだろう」

 ただ、マッティングリー監督が感心しているのは打つことだけではない。イチローは、守備、走塁の面でも、リーグトップクラスなのだ。

 しかし、そのことは「説明できない」と監督は言う。「今驚いているのは、改めて、彼がいかに素晴らしい選手であるかを知らされたことだ」。

 マッティングリー監督は、イチローを見ていると元ヤンキースのデレク・ジーターを思い出すという。

「彼らは自分を知っている。イチローも初めてリーグに来たころから、自分を変えない、ということに関しては、彼にそっくりだった」

 自分であり続けることは、イチローが大切にしている部分でもあるが、ジーターもまたそうで、そんな2人が好結果を残しているのは、不思議ではない──。マッティングリー監督には、そう映るようだ。

【クラーク・スペンサー】

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3000本安打が近くなり、最初の監督が過去を振り返った

ピネラ元監督(左)とイチロー(右)。(2007年3月撮影)(Getty Images)

Ichiro’s first manager looks back with fondness as 3,000 hits approaches

 イチローが大リーグに挑戦した時の最初の監督だったルー・ピネラは、いかにイチローが才能に溢れた若者だと理解していても、「42歳までプレーして、3000本に迫っているなんて… あの時、可能だとは思わなかった」と正直に話した。イチローは当時27歳。ピネラ元監督がそう思ったとしても、不思議はない。

「もしも2000本に届くなら、素晴らしい記録だと考えていた」

 それこそまっとうな考えだ。しかし、2000本などとうの昔に過ぎ去った。今、3000本安打は確実で、後は“いつ”かだ。

 すでに周囲は盛り上がり、マーリンズも様々な企画を立て、イチローにも特に希望はあるか確認したよう。日本の新聞社だけではなくアメリカの各メディアも準備を始め、私の新聞社では、達成した翌日、大々的にこの記録を報じる予定だ。

 今回、ピネラ元監督がインタビューに応じたのも、多数のメディアからインタビューリクエストが殺到し、個々には対応できないことから、多くの記者が参加できる電話会見という形を取った。記録のインパクトは監督を引退した人にまで及んだのだ。

 ちなみにピネラ元監督は、イチローが1年目からあれだけヒットを打つとも予想していなかった。アメリカの文化に慣れるのに時間がかかる。相手の投手を覚える必要がある。なにより速い球に適応できるかどうか──むしろ、心配したのである。しかしながらイチローはその時間をほとんど必要としなかった。彼は日本だけでなく、メジャーでもオールスタークラスの活躍が出来ることを1年目から証明したのだ。

 同時にピネラ元監督は、日本の野球を見直すことになる。

「日本の野球のレベルは高いと感じた。例えばイチローの基本的な動きを見ていれば、コーチがどんなことを教えているのかが分かる。素晴らしい野球だ」

 さて、イチローとピネラ元監督と言えば、こんなこともあったそうだ。

 イチローが大リーグ初安打を打ち、その後ダグアウトに戻ると、ピネラ元監督が頬にキスをした。元監督はそれを覚えていた。

「とにかく、彼のために良かったと思った。私は感情的な人間だから、つい抱きしめて、キスをしてしまった」

 3000本安打まではあと10本だが、この1本目の記憶──大リーグの洗礼は、一生忘れることはないだろう。

【クラーク・スペンサー】

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もしイチローがもっと早くメジャーリーグに来ていたら…

非公式ながらメジャー歴代最多安打を超えたイチロー。(Getty Images)

If Ichiro came earlier in Major League Baseball...

 日本のように決して、米国の新聞で一面を飾るような出来事ではなかった。イチローでさえ、成し遂げたことに戸惑いがある。

 15日、イチローは、敵地ペトコパークで行われたパドレス戦の9回、右翼線に二塁打を放ち、日米通算安打でピート・ローズが持つメジャーリーグ記録4256安打を超えた。二塁に到達すると、盛り上がる客席のファンに向かい、ヘルメットを取って応えている。

 ところが試合後、イチローはこう言ったのだ。

「正直言って、難しい。複雑な状況ですから」

 もちろん、イチローは理解している。ローズを抜いたとはいえ、それがあくまでも日米通算であり、決してローズのメジャーリーグ記録を更新したわけではないということを。よって、米メディアもそこまで興味を持たず、多くの新聞が彼の記録をさらりと触れた程度だった。

 ただ、当のローズが、米紙『USAトゥデイ』で自身の正当性を訴え、「次には、彼の高校のヒットも数えるのではないか」と話すなど、敵意をむき出しにしていた。これは極めて敬意を欠いた発言ではないか。一言、「おめでとう」と言えないのは恥ずかしい。全く別の記録であるのにそのような発言をするのは、彼こそが勘違いしているのかもしれない。

 もっとも、イチローにそのことを気にする素振りはない。

「ローズがよく思っていない、というコメントは聞いていますが、正直言って、ここ(ローズの記録)をゴールに設定したことはない」

 仮に、ローズがイチローを祝福しているなら、イチローとしても達成感があったかもしれない。しかし、いつからかこの記録に距離をおき、意味を見いだせなくなっていたようだ。

 結局、この日米通算安打記録に意味を求めるとしたらそれは、イチローがもし22歳でメジャーデビューを果たしていたら、メジャーリーグだけでローズを抜いていたかどうか、ということを想像する楽しさにある。実際のところ、多くのメジャーリーグファンが、そう考えている。

 イチローは記録的にいえば、やはりメジャーリーグのヒットキングではない。しかし、この数字に至ったことで、実質的なヒットキングに躍り出たのは、イチローなのかもしれない。

【クラーク・スペンサー】

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イチローが、通算最多安打記録を持つピート・ローズに迫る

イチローはピート・ローズの記録まであと12安打に迫っている。(Getty Images)

Ichiro closes in on Pete Rose, the all-time hit king

 1本1本、イチローは新しく届いたバットを耳に当てては、掌で叩きながら音を確認する。よく見ていると、それらのバットが2種類に仕分けられることに気づく。

 イチローによれば、叩いたときに良い反響をするバットがゲームバットとなり、そうではないバットは、違う目的に使われるそう。選手が記録などを達成すると、そのバットは野球殿堂に飾られることがあるが、後者のバットが残念ながら野球殿堂へ行くことはない。ただ、誰かの宝物になる可能性はあるようだ。

 さて、そろそろゲームで使われるイチローのバットが、野球殿堂入りするのではないか。

 イチローは6月5日の試合終了時点で、メジャー通算3000本安打まであと34本に迫り、これはやがて、全米で注目されるようになるだろう。34本を打つにはもう少し時間がかかるが、もう一つの記録──日米通算ながら、ピート・ローズが持つメジャーでの通算最多安打記録4256安打には、あと12本というところまで迫っている。

 もちろん日米通算である限り、4256安打を超えたとしてもそれは公式記録として認められることはないが、それでも大きな節目である。もちろんイチロー自身も、公式には認められないことを知っているが、そのことに不満を漏らすわけではない。

「そういう(公式記録とは認められないと主張する)人がいることは理解しています。2つの数字を合わせることは出来ないと。それに関して、別に問題はありません」

 ただ、イチローはこんな話もした。

「でも、もしも(日米の安打数を)合わせた数でも立派な記録だと言ってくれる人がいるならば、そう言ってくれることはうれしいことです」

 イチローはこれまでローズと会ったことも話したこともないとのこと。ただ、ローズのサイン入りのボールをもらったことはあるという。また、彼の現役時代のプレーを見たことがあるそうで、こんな感想を漏らした。

「今の時代、ああいった選手を見ることはない。ピート・ローズがああいうプレーをしていたのは、野球が好きだったからだと思います」

 もしもイチローについても同じような見方をしている人がいるとしたら、イチローもそれをうれしいと感じるのかもしれない。

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イチローのヒットが出るたび、1回ずつクリックする

3000本安打まであと40本に迫るイチロー。(Getty Images)

The hits keep coming for Ichiro -- one click at a time

 22日、マーリンズはイチローのボブルヘッド人形を先着1万2000人のファンに配った。通常のボブルヘッド人形とは違って、下にメジャー通算3000本安打までのカウンターがついている。クリックすれば、数字が変わるというわけだ。

 タイミングとしては最高だった。21日、クリスチャン・イエリッチが室内の打撃練習中に背中を痛めると、代わってイチローがスタメン出場し4安打を放っている。42歳のイチローは、42歳以上の選手で1試合4安打以上を放った7人目の選手となったが、翌22日にはさらに2安打を放つ。ボブルヘッド人形をもらったファンらは必死でクリックして数字を合わせたに違いない。

 6クリックによってイチローの通算安打は2956安打となった。イエリッチの故障が長引けば、さらにクリックが増える。

 ある意味、うれしい誤算となったわけだが、ドン・マッティングリー監督はこう話した。

「さすがだ。彼は、日本で1200本ぐらい打って、こっちを合わせれば4200本ぐらいか? それでいて3000本安打に迫っている、というのもおかしな話だが、そうした結果というのは、彼の安定感と野球が好きだということの表れだ」

 先週末に合わせて6安打を放つまで、ピート・ローズ越えは可能でも、メジャー通算3000本安打までは出場機会が限られることから、ペース的に厳しいかと思われたが、これで俄然、可能性が出てきた。

 今後、いくらイチローが好調でも、イエリッチのケガが癒えれば、また控えの役割に戻る。現在、ジャンカルロ・スタントンが絶不調だが、彼の代わりにイチローが出場することがあっても、それは1日だけ。よって、イエリッチが復帰した時点でヒットペースは落ちるかもしれないが、今回イチローは改めて存在感を示した。

 なお、イチローは23日も1番・左翼で先発出場すると2日前に続いて4安打を放っている。これでメジャー最多安打記録を持つローズにあと18本、メジャー通算3000本安打まであと40本に迫った。

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イチローは42歳でも周囲を脱帽させ続ける

たびたび42歳とは思えないプレーを見せるイチロー。(Getty Images)

Ichiro continues to wow at 42

 マーリンズのクリスチャン・イエリッチは18歳も年上のイチローに、度々驚かされているようだ。3日のダイヤモンドバックス戦ではイチローが、代打で逆転タイムリーを放ったが、その活躍を見て、「あれが、ずっとやってきたことなんだろうね」と言いながら首を振った。

「あそこでタイムリーが出て、試合の流れが決まった。彼が、最初の投票で殿堂に選ばれるといわれている理由が分かるよ」

 イチローは、メジャーリーグの野手では最年長だ。これからも年上の選手が現役復帰しない限りそうあり続けるわけだが、不動のリードオフマンから控えへと役割が変わっても、存在感そのものは変わらない。あのヒットでイチローのメジャー通算安打は「2947」となった。

 ところで、イチローを取材していて面白いと思うのは、彼のユーモアセンスだ。

 逆転打を打った翌4日、イチローは前日にチャンスで打席に立った際に緊張したと振り返ると、こう言った。

「少し、漏らしちゃったかと思った」

 通訳がそれを訳したとき、彼を囲んでいたアメリカのメディアは笑わずにはいられなかったが、イチローもまた笑っていた。

 イチローが緊張していた? おそらく誰も信じない。イチローもそれを分かっていて、極端なジョークを飛ばしたのだろうが、“漏らしちゃった”という発想がなんともユニークだった。

 さて、そのイチローにはこんな質問も飛んだ。

「42歳でもこれだけのことができ、多くの人が間違っていると証明するのは楽しいかい?」

 するとイチローは、こう答えた。

「そういう否定的な人は、42歳の人間は活躍できないと思っているのでしょう。でも僕は、証明しようとはしていないし、そうではない。それは彼らの意見ですから」

 むしろ、こう考えて欲しいよう。

「年齢は問題ではない」

 イチローが、キャリアの終わりに差し掛かっていることは事実だ。しかし、本当にそのことを感じさせないことが多々ある。彼は42歳にまつわる偏見を覆そうとしている。選手によっては年齢など関係ないのだと、教えてくれようとしている。

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イチローの最大の価値を引き出せるのは、控えの役割かもしれない

今季の起用法に注目が集まるイチロー。(Getty Images)

Ichiro’s best value nowadays might be off the bench

 20、21日と主力の休養に伴って連続スタメン出場したイチロー。20日は、マルセル・オズーナ、21日はジャンカルロ・スタントンがスタメンを外れ、イチローがそれぞれ代役を務めた。

 もっとも開幕以来、イチローは多くの時間をベンチで過ごしている。全く出場しない日もある。それはしかし、42歳の彼にとってプラスに作用しているのかもしれない。もちろんイチローは、毎日のようにスタメンで出場したいと考えているだろう。ただ、最近の彼を見る限り、先発で出場するよりも、途中出場の方がチームに貢献できる傾向がある。

 21日の試合を終えて、メジャー通算3000本安打にあと58本と迫っているイチロー。その21日は先発出場して2安打を放ったが、実はその前日まで、スタメン出場した2試合では8打数1安打と結果が出ていなかった。対して途中出場した場合、7打数4安打だった。

 もちろん、極めて小さなサンプル数である。これで何かを断じることは出来ないが、体力的に考えても、フル出場を続けるより体を休ませながら出場する今の起用パターンの方が、最大限の力を発揮できるのかもしれない。ドン・マッティングリー監督もそう考えて、イチローを使っているように映る。

 ある意味、贅沢な使い方だが、それができるのも、スタントン、オズーナ、クリスチャン・イエリッチが、開幕から故障もなく、出続けているからこそ。昨年の今頃は、イエリッチが腰のケガで戦列を離れていた。

 むろんこれが、本来のイチローの起用法なのだろう。昨年1月に契約した時、マーリンズとしてはそういう役割を想定し、イチローも受け入れた。ところが昨季は、イエリッチの離脱に始まって、オズーナの不振、スタントンの左手骨折で、イチローがほぼ年間通じて、フル出場することになった。それが結局、イチローの体力を奪っていった…。

 いずれにしても、今の起用法が安定すれば、イチローも出番を把握しやすくなる。それによって選手寿命が延びる可能性もありそうだ。

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イチロー、3000本安打に向けて踏み出す

イチローはメジャー3000本安打を達成できるか。(Getty Images)

Ichiro set to take chase on 3,000 hits

 イチローは成し遂げることができるか?

 イチローのタンクの中には、十分なガソリンが残っているのか?

 イチローは、65本のヒットを打ち、メジャー通算3000本安打に到達できるのか?

 イチローがメジャー16年目のシーズンを迎えようとしているが、そんな疑問が少なくない。

 昨季終了後、すぐにマーリンズは将来の殿堂入り選手と再契約し、そこにはイチローにマーリンズのユニフォームで偉業を達成して欲しい、という思いが透けた。カウントダウンが始まれば球場にファンが詰めかけ、足を踏み鳴らして声援を送る──そのような状景を想像したはずだ。

 イチローはマーリンズのどの選手よりもファンに愛されている。サイン会をすれば、マーリンズの投打の顔でもあるホセ・フェルナンデス、ジャンカルロ・スタントンよりも長い列が出来る。それを知っていればなおさら、チームはイチローにマイアミで打って欲しいと考えたに違いない。

 ただ、その保証はない。問題は65本を打つのに十分な打席が彼に与えられるかどうかである。マーリンズの外野は、スタントン、マルセル・オズーナ、クリスチャン・イエリッチで固まっている。彼らは、相手投手が右か左かで代わるようなプラトーンプレーヤーでなく、完全なレギュラーだ。揃って若いこともあり、特に休養も必要としない。となると、彼らに故障がない限り、イチローの出場機会はおそらく代打か代走に限られる。

 その場合、十分な打席が得られるかどうか。ざっと見積もれば、イチローの打数は200前後だろう。その場合、65本を打つには3割2分5厘という打率が求められる。逆に多くてもどうか。昨季は、スタントンの故障、オズーナのマイナー降格などで438回も打席に入った。しかしながら、最後は完全にガス欠になったというのが大方の見方である。となると、打席数があればいい、ということでもなさそう。

 年齢による体力の衰えがあるのだとしたら、イチローは年齢とも戦わなければならない。ちなみに過去、42歳以降に65本以上のヒットを放ったのは、フリオ・フランコ、ピート・ローズ、カールトン・フィスク、オマー・ビスケルらわずか14人だ。

 さて、マーリンズのシーズンは5日(日本時間6日)に始まるが、イチローに注がれる視線は複雑な感情が入り混じったものとなりそうだ。

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イチローと3000本安打達成の行方は不透明

3000本安打に注目が集まるイチロー(Getty Images)

Season of uncertainty awaits Ichiro and his quest for 3,000 hits

 誰も分からない。マーリンズのドン・マッティングリー新監督、バリー・ボンズ新打撃コーチも分からない。イチローは、メジャー通算3000本安打まであと65本と迫っているが、今季中に達成できるかどうか誰も確信がない。

 そもそもイチロー自身にも確信がない。

「どうなるか、分からない。第4の外野手ですから。もし、ライトで毎日先発出場するなら、2カ月ぐらいでと言えますが、そうではない」

 ただ、出場機会が読めない状況は今年が初めてではない。昨年も、同様の状況で開幕を迎えた。彼はあくまでも外野の控えだったのだ。しかし去年の場合は、劇的に状況が変化を遂げている。クリスチャン・イエリッチが腰を痛め、故障者リストに入った。マルセル・オズーナは、不振でマイナー落ち。ジャンカルロ・スタントンは、右手の骨折で長期欠場。結果として、イチローの出番が予想以上に増えたのだ。

 今年も誰かが故障すればイチローがスタメンで出場し、記録に近づく、という可能性がないわけではないが、マッティングリー監督はそれを暗に否定している。

「昨年は、出場機会が必要以上に多すぎた。彼の出場機会を制限するつもりはないが、使いすぎないように気をつけていく」

 昨季はイチローに頼り過ぎ。今年はそうならないようにしたい、とのことだが、仮に監督の言葉通りの起用になれば、イチローの打席数は昨季(438打席)の半分程度になってもおかしくはない。そうなると当然、イチローが残りの65本を打つには、限られた機会でヒットを打ち続けるしかない。250打数とすれば、打率2割6分が必要。昨年のような打率(2割2分9厘)にとどまるなら、記録達成は来季に持ち越される。

 さて、本当にイチローは今年、3000本安打を打てるのか。チームがシーズン中盤ごろにプレーオフレースから脱落していれば、イチローの記録を優先させてスタメン出場させるということもありうるが、チームにとってそれは出来れば避けたいシナリオ。あくまでもポストシーズンを目指したい。おそらく、プレーオフ進出とイチローの3000本安打は、両立しない。そういう中で、イチローはどこまでヒットを重ねるか。昨季同様、不透明なシーズンを彼は迎えようとしている。

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イチローの3000本安打は出場機会次第だ

イチローは今季中に3000本安打を達成できるのか?(Getty Images)

Ichiro's quest for 3,000 hits in 2016 will hinge on playing time

 マーリンズファンが、最後にイチローのプレーを見たのは、彼がマウンドにいる姿だ。イチローは昨シーズン最終戦で、念願の初登板を果たした。

 それからわずか2日後、マーリンズはイチローとの再契約を発表したわけだが、イチローは今季、多くの人が予想する通りの場所に戻るーーそれは言わずもがな、外野手の控えという役割だ。マーリンズはイチローと外野の控えとして契約し、本人も納得してのことである。

 しかしながら今年は、その控え選手がチームの話題を一人でさらってしまうかもしれない。彼は、メジャー通算3000本安打にあと65本と迫っている。カウントダウンが始まれば、イチローに集まる視線は、全米規模になる。

 では、達成できるかどうか。実は、そこに不安がないわけではない。控えである限り、イチローがどの程度打席に立てるか分からないからだ。仮に打席数が200だとしたら、3割2分5厘で65本である。ハードルは決して低くない。

 今季のマーリンズの外野の布陣はジャンカルロ・スタントン、クリスチャン・イエリッチ、マルセル・オズーナの3人で変更はない。昨季はスタントン、イエリッチの故障、オズーナの不振で、出場機会に恵まれたイチローは438回も打席に立ったが、今年も同じことが起きる保証はない。

 このオフ、オズーナがトレードされる可能性があった。実現していれば、イチローの出場機会は増えたかもしれないが、その話は立ち消えに。マーリンズは先発投手を必要とし、そのためにオズーナを交換要員と考えてきたが、フリーエージェントのチェン・ウェインと契約できたことで、先発投手の駒は揃った。

 現実的に考えて、控え選手の打席数は200前後だろう。だとすると、今年中に3000本安打に達するのは微妙だ。少なくとも300打席は欲しいところ。

 仮にシーズン終盤、3000本安打が見えてきて、さらにチームがプレーオフ進出の可能性を失っていれば、ドン・マッティングリー新監督は優先的にイチローを起用するかもしれないが、果たして・・・。

 ただ、はっきりしていることが一つだけある。3000本安打に達したその日、イチローは、殿堂入りを確実にする。

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イチロー、3000本安打を視野に2016年も続行

6日にマーリンズと新たに1年契約を結んだイチロー。(Getty Images)

Ichiro returning in 2016, take aim at 3,000 hits

 マーリンズのオフシーズンの最初の動きは、マーリンズの今季最後の試合で投球した選手との再契約だった。それはもちろん、イチローのことだが、間もなく42歳という年齢ながら、準備もなくマウンドに上がって89マイルのストレート投げた選手が、来季もマーリンズに戻ってくることになった。

「将来、殿堂に入るとか、来季、クローザーになるポテンシャルがあるとかは忘れてくれ」とマーリンズのデービッド・サムソン球団社長。「彼は、マーリンズのクラブハウスに来た時、瞬時にチームメイトから敬意を獲得した選手なんだ」と話している。

 あくまでもチームに必要な選手で、戦力以上の価値があるということだが、そこに関しては疑いがない。マーリンズを取材して17年になるが、チームメイト、コーチ、ファン、メディアから、これほどまですぐに受け入れられた選手を見たことがない。あの最終戦、イチローがマウンドに上がると、両チームの選手がダグアウトの最前列に飛び出し、イチローの投球を見守った。

 もちろん、イチローの打者としてのピークは、過去のものだ。しかし、鍛え上げられた体は41歳とは思えない。守備や走塁は、まだまだ高いレベルを保っている。ただ来季、イチローはどれくらい出場機会を得られるのか。今季は、チーム内で誰よりも多くの試合に出場した。それは、ジャンカルロ・スタントンの長期欠場、マルセル・オズーナのマイナー降格、クリスチャン・イエリッチの2度の故障者リスト入りに伴うものだが、来季も同じような状況になるとは、想像しがたい。今季が特別と考えた方がいい。

 となると、出場機会が昨季よりは確実に減る。その場合、メジャー通算3000本安打まではあと65本だが、届かないかもしれない。

 ただ、サムソン球団社長は「3000本については、イチローと同じ考えを持っているが、彼は3000本安打を打つために、現役を続けるのではない。野球が好きだからだ」と答えている。

 つまり、互いに、3000本を考えての契約ではない、と。現実的に考えて、その可能性はゼロではないはずだが、イチローも3000本安打を狙うなら、もう少し出場機会があるチームを考えたはず。そう考えれば、今回の再契約の裏には、別の考えがあるかもしれない。

 その答えは来季が始まらないと見えないかもしれないが、マーリンズとイチローは、共通の考えを持ち、シーズン終了2日後に、合意に至った。

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年齢がイチローを捉えはじめている

イチローにも年齢の壁が忍び寄っている?(Getty Images)

Age seems to be catching up with Ichiro

 23日のイチローは我々がよく知るイチローだった。

 1点を追う延長10回裏、先頭のイチローはライト前ヒットで出塁すると、その後に同点のホームを踏んだ。翌11回裏、2死一塁で打席に入ったイチローは、粘った末に四球を選び、ディー・ゴードンのサヨナラヒットに繋げた。

 ただ、このようなイチローの活躍を見るのは最近では稀である。コンディションはいいようだが、イチローにもついに年齢の壁が忍び寄っているように映る。

 7月、イチローの月間打率は1割9分5厘で、キャリア最低だった。しかし、今月はそれをさらに下回りそう。23日の段階で9月の月間打率は1割7分3厘。盗塁も8月25日に記録して以来遠ざかり、あと2つでメジャー通算500盗塁だが、今季中に達成できるかどうかわからなくなった。

 守備に関しては今も安定している。チームメイトはまるで神様を見るかのようにイチローを見つめている。

 しかし、現実としてイチローの力は衰えている。

 今年、先発出場の機会が予想に反して多いのは、クリスチャン・イエリッチとジャンカルロ・スタントンの故障、マルセル・オズーナのマイナー降格などが理由で、決してポジションを奪ったわけではない。それはむしろ彼にとってチャンスだったわけだが、結果的には、もうイチローがレギュラーの選手でないことを証明してしまったかもしれない。

 しかし、控えとしては十分な戦力。イチローはメジャー通算3000本安打まであと66本と迫っており、マーリンズとしては、ぜひマーリンズのユニホームを来て達成して欲しいと考えている。

 一部では古巣のマリナーズが獲得に動くとの情報もあるが、投手が打席に立たないア・リーグではなかなか出場機会が回ってこないのではないか。逆にナ・リーグなら投手の代打として出場機会がある。おそらくナ・リーグに残った方が記録達成には近道だろう。

 さて、このオフ、イチローはどんな決断を下すのか。去就が気になるところだ。

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イチローはピート・ローズに近づいている。いや、本当にそうか?

日米通算で4205本のヒットを記録しているイチロー。(Getty Images)

Ichiro closing in on Pete Rose. Or is he?

 イチローは、メジャー最多安打記録を持つピート・ローズを射程圏に捉えた。

 いや、本当にそうか? それは、どの数字を数えるかによる。

 ローズのキャリア最多安打記録は4256本。イチローの場合、メジャーでの2927安打に日本での通算安打1278本を加えて現在4205安打。そう、日米通算なのである。

 おそらく、イチローが日米通算でローズを超えたとき、我々は“しなくてはいけない仕事”として報じることになる。日本のようにスポーツ面の見出しを飾るほどではない。あくまでも参考程度の扱いだ。

 理由は単純。それは、メジャーの記録ではないからである。ローズを超えるには、ヒットのすべてをメジャーリーグで記録する必要がある。メジャーリーグよりレベルが低いとされる日本の数字を加えるわけにはいかない。

 ただ、こんな考え方もある。イチローのチームメイトで、2年前に日本の東北楽天ゴールデンイーグルスでプレーしたケーシー・マギーは、「俺の数字はとても合算できるようなものではない」と苦笑したが、イチローに関しては「違う」と言った。

「彼はメジャーリーグでも十分に通用することを1年目から証明した。もし彼が初めからメジャーリーグでデビューしていたら、やはり同じようにローズに近づいているのではないか」

 おそらく、同じように考える人は多い。イチローは1年目に新人王、首位打者、最優秀選手賞まで総なめにし、2004年にはシーズン最多安打記録まで作ったのだから。

 マギーはさらに言う。

「イチローは、我々の時代では間違いなく地球上で最高の打者の1人だ」

 確かにそういう選手がいることも考えると、ローズの記録を日米通算とはいえ、抜いた時に他の記者らがどう捉えるか興味深い。肯定的に捉える人もいるのではないか。

 確実に言えることが一つある。イチローはメジャー通算3000本安打にも迫っており、その時こそ、全米の新聞の見出しを飾り、彼の偉大さが称えられることになるだろう。

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イチローは41歳にしてなお、はつらつとした動きを見せる

29日時点で350打席以上に立っているイチロー。(Getty Images)

Ichiro still going strong at 41

 現在、様々な記録の節目が、まるでドミノ倒しのようにやってくる。先日イチローは、メジャー1万打席を達成したがメジャー最多安打記録を持つピート・ローズに次いで2番目という速さだった。遅かれ早かれメジャー通算500盗塁にも達するはずだが、今そうしたイチローの記録を調べていて驚くのは、29日時点で“352”という今季の打席数である。

 おそらく、この時点でこれだけの打席に立つとは、本人も含め、誰も思わなかったのではないか。そもそもイチローは4番目の外野手なのだ。開幕前、イチローの役割について聞かれると、マイク・レドモンド前監督は、「代打やピンチランナー、守備固め、レギュラーの外野手が休養を必要とする時は、イチローに代わって出場してもらう」と話した。

 マーリンズの外野には、昨年ゴールドグラブを獲得したクリスチャン・イエリッチ、昨季23本塁打のマルセル・オズーナ、昨季37本塁打で本塁打のタイトルを獲得したジャンカルロ・スタントンがいて、確かにイチローがレギュラーを奪い取る余地はないように映った。

 ところが、シーズンが始まってみると、まずイエリッチが腰の故障で離脱。その後、スタントンが左手の骨折で長期欠場し、今なお、故障者リストにいる。その後、オズーナが不振でマイナー落ち。結局、彼らの穴をイチローが埋めて来た。

 イチローはもう、かつてのような安打製造機ではない。打率は2割5分1厘だ。ただ、今なお、チームに貢献している。

 先日イチローが、盗塁を決めて二塁にいたディー・ゴードンを犠牲バントで三塁に送るシーンがあったが、あれはイチローの独断。あのプレーにダン・ジェニングズ監督は感心し、「イチローが、このチームに必要であることを示すいい例だ」などと話した。ジェニングズ監督にしてみれば、イチローのそうしたチームプレーが若い選手にいい影響を与えていると感じているようで、そういう意味でも、「貢献度が高い」という。

 スタントンは今週末には復帰する見込み。しかし、再びイエリッチがケガをした。マーリンズは最後までイチローに頼ることになりそうだ。

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イチローは多くの面でタイ・カッブと異なる

8月15日に日米通算4193安打としてタイ・カッブの記録を超えたイチロー。(Getty Images)

In more ways than one, Ichiro is no Ty Cobb

 イチローが、日米通算ながらタイ・カッブの通算安打である4191本を超えた。両者のプレースタイルには類似点が多い。コンタクトして、足を生かし、ヒットを稼ぐという点では、特に共通しているのではないか。

 ただ、プレースタイルを細かく分析すると、大きな違いもある。

 数年前、米スポーツ専門ケーブル局『ESPN』は、メジャーリーグ史上もっとも“汚い”選手は誰か、というアンケートを行ったところ、カッブが1位だった。

 彼は現役時代、スパイクの歯を野手に向けてスライディングした。1910年の首位打者争いでは、最後の最後まで行方が分からなかったが、カッブのチームメイトは勝ったカッブではなく、2位に終わったナップ・ラジョイの健闘を称え、贈り物を送った。カッブは、チームメイトからも疎まれていたわけだ。

 カッブは1961年に亡くなったが、その前に「私はサディスティックで、感情の起伏が激しく、横暴なヤツだった」などと書き残している。自分でも、他の人から嫌われる理由を分かっていたということか。

 イチローは、そんなカッブとは対照的である。

 プレーは、実に紳士的。例えば、見逃しの三振を喫したとする。たとえそれがボール球だったとしても、イチローは審判の方に顔を向けることはない。審判を見ることは一種の抗議を意味するが、イチローは静かにダグアウトに引き上げる。

 また、際どい判定のリプレーが行われている間、仮にセーフだと確信していても、審判が最初にアウトとコールしたならイチローはその判定を尊重し、一度ダグアウトに帰る。

 カッブだったら? いずれのケースでも審判につかみかかっているかもしれない。

 またイチローは、四球で歩くとき、バットを地面にそっと置く。バットボーイのことを気遣っているのだろうが、そこには道具に対する敬意も覗く。

 カッブだったら? そういう姿は、想像しがたい。

 イチローは記録上、カッブを超えたことになる。ただ、それよりもはるか以前にフェアプレーの精神においてカッブを超えている。

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イチローの3000本安打への冒険がいよいよ始まる

3000本安打まであと98本のイチロー。(Getty Images)

Let the Countdown Begin: Ichiro's quest for 3,000 hits

 さて、いよいよカウントダウンである。

 2日、パドレス戦で二塁打を放ったイチローは、メジャー通算3000本安打まであと98本とした。過去、1900年以降の近代野球に限れば26人が3000本安打を記録しており、イチローが達成すれば27人目となる。ただ、もうかつてのように毎日のようにスタメンに名を連ねるわけでない。限られた打席の中でどれだけヒットを重ねられるか。そうなると、残りが二桁になったとは言え、近づいた感はない。

 過去、2900本以上のヒットを打ちながら、3000本安打に届かなかったのは、1900年以降だと5人いる。サム・ライスは2987本、フランク・ロビンソンは2943本、バリー・ボンズは2935本、ロジャース・ホーンスビーは2930本、アル・シモンズは2927本でそれぞれキャリアを終えた。違う見方をすれば、2900安打を放った選手のうち、83%が3000本に到達しているわけだが、出来ればイチローとしては6人目ではなく、やはり27人目となりたいところだろう。

 ちなみに、5人のうち4人が殿堂入りしている。ボンズだけが選ばれていないわけだが、ステロイドの問題がなければ選ばれていたはずで、そう考えると、3000本安打に届かなくとも、2900本を超えていれば殿堂入りの可能性が極めて高くなることになる。もっともイチローの場合、今の時点でも殿堂入り可能。日本での実績なども合わせれば、疑いはない。

 そうはいっても、イチローとしては、きっちり3000本安打を打って殿堂入りしたいはず。問題はその十分な時間があるかどうか。2日の試合を終え、イチローの今季の安打数は58本となった。今季は残り約2カ月。あと20本程度打てれば、来季を3000本安打まで残り75本前後で迎えられる。一方で、80本以上残り、来季の起用が今季と同じようなパターンであるならば、記録達成は微妙となる。

 今後、今週末までにはマルセル・オズーナが復帰し、ジャンカルロ・スタントンも2週間以内には戻ってくる。となると、現在はスタメン出場の多いイチローだが、2人の復帰に伴って出場機会は限られよう。となればヒットの数も限られるだけに、イチローとしては2人が帰ってくるまでに出来るだけヒットを打っておく必要がある。理想としては、残り60本程度として来季の開幕を迎えたい。カウントダウンは始まっているが、その前にいくつもハードを超える必要がありそうだ。

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野球殿堂はイチローを待っている

殿堂入り確実との声もあるイチロー。(Getty Images)

The Hall of Fame awaits Ichiro

 26日、野球殿堂があるニューヨーク州クーパーズタウンで、今年の殿堂入り選手がお披露目された。2015年度は、ランディ・ジョンソン、ペドロ・マルティネス、クレイグ・ビジオ、ジョン・スモルツの4人が選ばれている。

 いずれも一時代を築いた選手たち。それぞれの晴れやかな笑顔が印象に残ったが、おそらく、イチローもいつかはそこに加わるのではないか。入れるかどうかではない。いつ入るかだ。殿堂入りが決まればもちろん、日本人選手では初となる。

 知られる様に殿堂入りの選手は、我々全米記者協会に所属する記者らの投票によって決まる。現在、500人を超える数の記者が投票権を持ち、私もその1人だが、将来イチローに投票するかと聞かれたら、今の時点で投票すると自信を持って言える。

 個人的には、イチローを取材してまだ6カ月だ。ナ・リーグのマーリンズの番記者でもあるため、去年までア・リーグにいたイチローを取材した経験はほとんどない。しかし、6カ月は十分な時間だった。

 選ぶ基準については、成績がもちろん大きな目安となる。明確な数字の基準はないが、日米通算4000本以上のヒットを放ち、年間の最多安打記録も持っている。また、メジャー通算3000本安打にはあと102本と迫り、通算500盗塁もあと4つで達成である。もう、そうした数々の記録の価値については、議論の余地がないのではないか。

 続いて人間としてどうか。ここに問題があるバリー・ボンズ、ロジャー・クレメンスらは、あれだけの実績がありながら、今も殿堂入りを果たしていない。薬物問題が全米を揺るがすスキャンダルとなったことで、現役時代の栄光がすっかり色あせてしまった。

 その点、イチローは問題ないのではないか。24日の試合で初回に二盗を試みたイチローは、アウトを宣告された。セーフだと確信を持ったマーリンズは、すかさずチャレンジ権を行使する。誤審は明らかだった。しかし、あのときイチローは一旦、ベンチに引き上げている。それが誤審であろうと、審判が下した判定には敬意を払うべきだと考えたらしい。イチローの野球に対する真摯な姿勢、スポーツマンシップは、あのプレーに代表される。

 イチローは、確実に子供たちにとって、いや、若い選手にとって、素晴らしいロールモデルだ。おそらく、私と同じ様に考える人は多いはず。彼は引退後、資格1年目で殿堂入りを果たすに違いない。

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